多摩ニュータウンを「地域包括ケア・コンパクトシティ」のモデル地域に

小黒 一正

注目は少ないが、最近(2014年10月23日)、以下の報道があった。

旧公団団地を医療拠点に UR、地域高齢化に対応 まず多摩など23カ所で 日本経済新聞2014年10月23日電子版

独立行政法人の都市再生機構(UR)は運営する団地の入居者の高齢化に対応し、団地内で地域の医療や福祉を担う拠点づくりを進める。自治体やNPOなどと連携し、医療や介護サービスを一体的に提供できる体制を整える。

年度内に始め、2020年度までに100カ所程度へ広げる方針だ。急速な高齢化をにらみ、住民が住み慣れた街で安心して暮らせるようにする。

まずは高島平(東京・板橋)や多摩ニュータウン(東京都多摩市)、千里ニュータウンの一角を占める新千里西町(大阪府豊中市)など、首都圏や近畿圏を中心に23の団地を選んだ。ほとんどが1千戸以上の比較的大きないわゆる「旧公団団地」で、急速な高齢化が見込まれる場所だ。(略)

誘致にあたっては団地内の空いた施設を活用したり、高齢化で利用者が減ってきた駐車場などを新しい施設に建て替えたりする。事業者の賃料を減額するなどの優遇策の導入も検討している。(以下、略)


これは重要な試みである。何故なら、2025年には団塊の世代のすべてが75歳以上になるからだ。その結果、2000年時には900万人に過ぎなかった後期高齢者(75歳以上)が2025年には2000万人に達し、医療・介護ニーズが急増する。その際、「高齢化は地方の問題」と思いがちだが、それは正しい見方ではない。むしろ、都市部で高齢者が急増する。

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例えば、東京都は増加数においてトップとなる。2005年時には100万人に過ぎなかった後期高齢者は、東京オリンピック後の2025年には約2倍の200万人超に達する。首都圏の神奈川県・埼玉県・千葉県も同様。大阪府や愛知県も似たような状況にある。これは、都市部の医療・介護ニーズが倍増し、介護施設も不足することを示唆する。

医療・介護のコストは前期高齢者(60~74歳)よりも後期高齢者の方がずっと高い。財源が無限にあれば、すべてのニーズに対応可能であるが、現下の厳しい財政状況ではその余裕は当然ない。他方、急速な人口減少により、これから地方では消滅危機に直面する自治体も出てくる

では、どうするのか。この問題を同時に解決する方法は限られており、拙論文で提唱するように、考えられる有効な施策は、110兆円の社会保障費の資源配分を見直しつつ、「地域包括ケアシステム」と人口集約を図る「コンパクトシティ」 との融合、すなわち、「地域包括ケア・コンパクトシティ」(Chiiki Comprehensive Care Compact City, 5C’s)の推進を図ることである。

「地域包括ケア・コンパクトシティ」とは、効率的かつ効果的な医療・介護などのサービスを、「コンパクトシティ」という集約的で質の高い住まいや、地域の空間の中で提供するというものである。都市再生機構(UR)の試みはこれに繋がるものであり、まずは多摩ニュータウンを「地域包括ケア・コンパクトシティ」のモデル地域に選定し、積極的な推進を行ってみたらどうか

(法政大学経済学部准教授 小黒一正)