アレッチ氷河にまつわる「祈りの話」 --- 長谷川 良

2014年11月03日 11:27

国際赤十字赤新月社連盟は10月28日、2014年版「世界災害報告書」(World Disasters Report)を公表したが、そこに面白い話が記述されていたので読者に紹介する。

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▲地球温暖化で氷河が溶け始めたアレッチ氷河(スイス政府観光局提供)


今年の報告書の焦点は「文化とリスク」だが、話は350年前に遡る。スイスのアルプス地帯に住む住民は毎年、アレッチ氷河が拡大し、洪水や雪崩が頻繁に発生し、生活を脅かすまでになったので、現地のカトリック教会の信者たちは氷河がこれ以上拡大しないように祈りだした。もちろん、信者たちの願いはローマにも伝えられ、当時の法王はスイス住民の祈りが実現するように共に祈ることを約束した。

それから350年が経過した。アルプス山脈最大の氷河が年々、融け始め、後退してきたのだ。350年前の住民の祈りは成就されたが、氷河が急速に後退したため飲料水不足などさまざまな影響が出てきたのだ。

神は350年前の先祖たちの真摯な祈りを聞き入れられ、氷河を急速に融かされたと考えた信者たちは早速、「神様、われわれの祈りをこれ以上聞かれなくていいです」と祈願する一方、2009年、ローマのバチカン法王庁に一報を送り、「法王様、これ以上祈らないで下さい」と懇願したというのだ。

ところで、氷河が後退したのは信者たちの熱心な祈りの結果というより、地球温暖化が原因で、氷河が溶け始めたことが明らかになった。ユネスコの世界遺産員会は2001年、アレッチ氷河を世界遺産リストに登録したが、地球温暖化がこれからも続けば、アルプスの氷河の80%は融けてしまう、という予測が報じられている。

以上、最新「世界災害報告書」の第2章「宗教と信仰は危機対応への考えや対策にどのような影響を与えるか」という箇所に記述されていた話だ。

祈りとその結果を長期間、検証した研究者がいないので、祈りの内容がどのように実現されたか、なぜ実現できなかったかを明らかに実証する文献は残念ながらない。人は窮地の時、祈るが、苦しさが去れば祈った内容すら忘れてしまう。

しかし、神は人間の祈りをいつまでも覚えておられるのかもしれない。アレッチ氷河にまつわるスイス住民の「祈り」は、たとえ地球温暖化がもたらした結果だとしても成就されたことは間違いがないわけだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年11月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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