インフレの足を引っ張る原油安 --- 岡本 裕明

アゴラ

11月27日にウィーンで開催されたOPEC総会。サウジアラビアなどが減産に同意しないのではないかと事前から囁かれていましたが予想通りの展開となってしまいました。石油の先物価格は急落しており、明日のニューヨーク市場では70ドルを下回る気配もみえています。また、サウジアラビアのスタンスは短期的視野というより売れるだけ売るという姿勢に見え、市場では60ドルの声も聞こえてきました。


サウジの姿勢はアメリカのシェールとの戦いとも指摘されています。当初、アメリカはロシアとの不仲な関係から石油価格を引き下げることでロシア経済を窮地に追い込む作戦でありました。また、シェール革命によりアメリカは石油輸入に頼らない体制にすることができるため、政治的には中東との同調が必ずしも必要なくなる政治的戦略も見て取れました。

ところが、今の状況はサウジがそのプライスリーダーシップを譲らず、アメリカのシェールすら脅かそうとしているのであります。理由はシェールの算出コストが一般的には80ドルを超えるとされるため、今の価格ではシェールは赤字となるからです。しかも初期に開発されたオイル分が多く良質なシェールならともかく、雨後のタケノコのように参入した開発業者、投資会社、あるいは日本の商社の中にはシェールガスと比べ販売価格が高いオイルが少なく、産出コストも高い案件を抱えているなどの問題が多いとされています。つまり、サウジがこのまま減産をしなければ新規参入したシェールの開発会社は立ち行かなくなる可能性もあり、それを狙って横綱相撲をしようとしているのではないか、とされるのです。

さらにシェールは油田と違い、同じところから出るガス、オイルには限界があり、すぐに枯れてしまうという弱点があります。つまり、その度に開発しなくてはならず、長期安定性に欠けている点でサウジが力任せの勝負に出ているとも言えそうです。

もう一つは石油に対する世界需要の低迷があるのでしょう。急速なグローバル化の反動も含め、アメリカを除き、世界経済は厳しさを増しています。中国は来年以降の成長率を7.0%に引き下げ、背伸びしない成長を遂げようとしています。その上、自動車などの燃費効率向上も含め、石油に対する需要に陰りが見えていることも大いなる影響となります。

この石油価格に対して日本ではどういう影響があるのでしょうか?

笑うのが電力各社を含む石油製品販売会社、苦り切っているのが黒田日銀総裁であります。

石油の輸入価格は為替の円安が響き、相当の痛手となっていたのですが、石油価格が3割以上下がってきていることで為替分をある程度相殺できることになり、このトレンドが続けば輸入価格は一息つけることになります。これは一部製品の価格転嫁に歯止めをかけることができて消費者や需要者にはうれしい話となるはずです。

一方、2%のインフレをどうしても達成したい黒田日銀総裁としては異論の多かったバズーカ第二弾を放ってでもインフレ率という数字の目標に達成するつもりでした。その最大の敵の一つとされたのが石油価格の下落であります。今回のOPECの減産に至らず、という結果は日銀の目標へのハードルが何枚か上がってしまったことになります。

もっとも石油価格が下がったからすぐに石油製品の価格が下がるわけではなく、各社の契約や為替予約によりその影響が出るのは来春以降ではないかと思います。それは黒田総裁の2年のお約束の時期と重なることになり、安倍首相の戦略も矢面に立たされる可能性はあります。

世の中の動きはかつて以上に複雑でエレメントが多く、政策や経営戦略の難しさを改めて教えてくれた気がします。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年11月28日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。