求められる政治のオープンデータ化 --- 西村 健

アゴラ

衆議院が解散され、12月14日に総選挙が行われることになった。街頭に立つ候補者の姿を見かけることも増えた。政治関係者も動きはじめているだろう。しかし、選挙になると、選挙で走り回る政治関係者が目立つことは滅多にない。


選挙で走り回る人々は様々な目的で活動に参画している。朝早く候補者の横でチラシを配ったり、候補者の後ろで声を枯らして応援したり、他人のために熱心に活動する姿には頭が下がる。しかし、説明もなく、ただ「投票してください」と声をかけられたり、何年かぶりに突然連絡してこられたりするなど、選挙運動に燃える姿を目の当たりにすると多くの人々はひいてしまうのが現実だろう。筆者もそうだ。

政治組織として有名なのは公明党を応援している創価学会であるが、それ以外の団体の存在はそれほどまでに知られてはいない。経団連、労働組合というところまでだろうか。一般の人にとって、どの業界団体がどの候補者を支援しているのだ? ということは普通に生活していたらわからない。どの団体が支援しているかは、選挙事務所に行って、壁に掲げられている「推薦状」を確認し、その名前を検索するまでしないとわからない。地方新聞だと比較的ニュースになるが、都会になるとこうした情報を追うことは難しい。

そこで提案がある。最近はやりの「オープンデータ」をこの際、選挙においても広げられないか。

各業界団体や各団体・組織は〇〇政治連盟といった形で政治団体を作る。医師会なら日本医師連盟、農協なら全国農業者農政運動組織協議会といった具合だ。業界ごとに様々な団体があり、団体は様々な企業から構成される。こうした団体は、普段政治献金を行ったり、選挙の時は所属構成員をボランティアとして派遣したりして政治家や政党を応援する。

どの団体がどの政治家を応援すするのか、政治家から見ればどのような利害関係者と近いのかという情報は民主主義にとって決定的に重要な情報であろう。個人のプロフィールや活動や候補者のイメージや性格よりも。

どの団体から推薦や献金をうけていて、どの団体の利害に耳を傾けがちであるかという情報があれば、国民が投票行動する際に参考にする情報の選択肢が増え、投票後の行動に対するチェックやウオッチも一段と進む。

政治家は色々な人に支援される。支援者から色々なことを頼まれたりすることも多い。基本的にサービス業であるから、多くの献金をしてくれる組織や人に対して、断ったり、厳しいことを言ったりすることはなかなか難しいのが現実だ。世間から見ると「先生」といわれることもあるが、自己利益や自己欲を満たそうとする有権者の声に対してうまく振る舞わなければいけない。支持者の意見や受けた恩に応えないといけない。時には自分を殺してでも。

そういった意味で、なかなかかわいそうな存在でもある。特に、地位が上がればあがるほど、多くの人が寄ってくる、献金もしてくれる。増大する恩に応えないといけない。そのため、支援者中心に物事を考えるようになってしまいがちだ。

支持者との関係も行き過ぎると、最悪の場合、贈収賄事件になる。これまでのスキャンダルを見ていても、事件になった場合、利益団体と政治家を比較して、政治家のほうが批判の的になりがちだ。

オープンデータ化すれば、政治家を見る時に、どういった利害を代弁しているかがはっきりする。そして、その議員の行動は単なる利害誘導なのか(つまり、「利権屋」、「○○の操り人形」)、利害にとらわれず信念に従った行動(「志のある政治家」)なのかが明らかになる。

団体や利害関係者から見ればそんなことはオープンにしてもらいたくないというのが本音だろう。しかし、政治家=悪というイメージで政治家だけが批判される時代でもなかろう。企業もCSR(企業の社会的責任)が問われる時代になった。アメリカでは政治家への政治献金が株主総会で議論されるケースもある。

政治とは、多様な利害や価値観をもった人々が一定のルールの下での闘争である。政治家を評価する情報の少なさはこの投票率の低さにも影響しているだろう。そのためにも情報をオープンに。そう、特定利害の代弁者ではなく、国民の「代理人」として政治家に頑張ってもらうために。

西村 健
日本公共利益研究所 代表