原油価格が暴落している。今夜10時の段階で1バレル66ドルと、半年でピークから4割下がった。これが10月の消費者物価指数(総合・コアCPIとも)の前年比上昇率が0.9%に下がった最大の原因だが、このときはまだ90ドル台だから、今後もCPIはさらに下がるだろう。
これは日銀以外のすべての国民にとってグッドニュースだが、2%のインフレ目標は絶望的になった。「デフレ脱却」は、実はOPECのおかげだったのだ。暴落の原因はOPEC総会で減産が見送られたためだが、これはアメリカのシェールオイル業者を駆逐するpredatory pricingと見られている。OPECの原価は5~10ドルぐらいだから、まだまだ闘いは続く。
黒田総裁がいくら追加緩和で「デフレマインド」の払拭に奮闘しても、原油価格を上げることはできない。残るのは、財政への影響だけだ。日銀政策委員の白井さゆり氏は記者会見で、CPIの低下の原因が原油価格であることを認める一方で、次のようにのべた。
中央銀行の金融政策にとって、物価の動きと予想物価上昇率の動きは大変重要です。それらが下がっている時に、しかも見通しも下がっている時に、放置できるということがあり得るのだろうか、私は金融政策運営者としてそれはできないというのが最大の理由です。それはマネタイゼーションへの懸念を越えて重要な問題だと思います。
マネタイゼーションとは、日銀が実質的に国債を引き受ける財政ファイナンスのことだ。これは周知の事実だが、政策委員が公の場でマネタイゼーションを肯定したのは初めてだ。これは日銀のウェブサイトに出ているので、事務方もチェックした上でのことだろう。
日銀が公式に「財政赤字の穴を埋めてます」と認めた影響は小さくない。今すぐ国債がどんどん売られることは考えにくいが、金融村もそろそろ考え直すだろう。メガバンクはすでにデュレーションの短い国債に逃げ、GPIFも公然と国債を売り始めた。
しかし日銀には、出口がない。バズーカをやめるという意思表示をするだけで、金利が上がり始めるからだ。それを防ぐには、日銀がどんどん国債を買い占めるしかないが、100%買い占める前に金融村が売り逃げるだろう。これからの見どころは、OPECに買い向かう黒田総裁と、売り逃げる金融村の攻防戦である。