日本共産党への警戒を緩めるな --- 長谷川 良

アゴラ

日本で12月14日、総選挙の投開票が行われ、大方の予想通り、安倍晋三首相が率いる自民党が議席291、公明党と合わせて与党326議席と3分の2以上の議席を獲得して圧勝した。総選挙の結果を受け、第3次安倍政権がスタートする。


安倍首相の早期議会解散、総選挙の実施は大きな賭けだったが、成功したわけだ。アルプスの小国オーストリアでも14日夜、日本の総選挙結果を報道し、安倍首相の笑顔を映し出していた。オーストリア通信は「弱い野党勢力が与党自民党の大勝利の主因」と分析する記事を発信していた。

民主党は議席を微増させたが、自民党を脅かすには余りにも貧弱だった。維新も前回ほどの勢いがなかった。同党は分裂後、党の態勢立て直しができないまま、選挙戦に突入してしまった。橋下徹共同代表が指摘していたように、準備不足は明らかだった。

総選挙結果で驚いたのは共産党の躍進だ。8議席から21議席と大きく議席を伸ばした。同党の躍進について、「共産党は国民の政府批判票の受け皿となった」という。肝心の民主党が伸び悩み、代表の海江田万里氏は落選。維新は党分裂後の混乱が続いた一方、共産党は他の野党陣営のゴタゴタに助けられた感じだ。

自民党への批判票が共産党へ流れたことに戸惑いを感じる。民主党はその政治信条では自民党と余り変わらないが、共産党は共産主義というイデオロギーに基づく世界観を有した政党だ。イデオロギー色は少なくなったが、同党が共産主義思想を破棄したとは聞かない。

日本の有権者は共産主義の実態を理解しているのだろうか、と懸念する。冷戦時代、東西両欧州の架け橋的な位置にあったオーストリアは共産主義諸国の実態を間近に目撃してきた。連日、旧ソ連・東欧共産政権から人々が命がけで逃げてきた。オーストリアは冷戦時代、200万人の政治難民を収容した。だから、大多数の国民は共産主義が間違った思想であり、国民を幸福にしないことを教えられなくても知っている。

オーストリアにも共産党は政党として存在するが、国民議会で戦後、議席を獲得したことがない。国民は共産党を信頼しないからだ。一方、日本はどうだろうか。共産党が政権への批判の受け皿になった、ということは何を意味するのだろうか。繰り返すが、共産党の歴史観、世界観、人間観が人間を幸せにしないことは実証済みだ。

多分、日本の有権者の中には、共産党イデオロギーを支持はしないが、与党批判の声として票を投じた国民が多くいたのだろう。冷戦を身近に体験してきた当方は日本の共産党が正式にその思想から決別するまで警戒を解くべきではないと考えている。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年12月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。