日本のケータイメーカーはなぜ敗けた、という問い --- 中村 伊知哉

2015年01月05日 15:16

東大・吉川良三さん。日立、日本鋼管を経てサムソン電子に移籍、その発展に尽力されました。吉川さんによれば、日本メーカーの技術者は力が落ち、韓国にはみんな面接に落ちてもう採ってもらっていないそうです。サムソンを事例に、日本凋落の理由を聞いてみました。6点あります。


1) 日本メーカーのもの作りは設計から作るまで1年以上かかるが、サムソンはケータイなら3週間、テレビなら3ヶ月でモデルチェンジできる。このスピードの差が大きい。

2) 日本メーカーはマーケティングを「市場調査」と誤訳している。過去のデータに基いて調べるばかりで、市場「発掘」になっていない。

3) 日本はコンプライアンスを「法令遵守」と誤訳している。サムソンはコンプラを「社会変化への柔軟な対応」と解している。朝令朝改のスピードでルールを変える。

4) 「イノベーション」の「技術革新」も誤訳。市場に受け入れられるものを作るというビジネス寄りの言葉であり、いいものを作るより売れるものを作る、という発想。

5) 日本メーカーの設計者は図面が書けない。垂直統合に浸かっているため、他社に渡せば作れるようなものを描けない。水平分業では役に立たない。

6) 日本がゆでがえるになった一因は「消費者のおごり」もある。不都合があれば製造者の責任で、高機能を欲しがる。その厳しさが製品を支えていたが、今はメーカーの競争力を落とす方向に作用している。

ふむう、なるほど。これはメーカーだけの問題でなく、日本の産業全体に共通する課題であり、けっこう「学」が整理すべきことがありそうです。

さて、そんな意見交換をしていたら、通信会社の重鎮や官僚OBたちから、「日本のメーカーはなぜ敗けたのか、それがわからない。」という声が相次ぎました。

第二世代ケータイ=2Gは欧州がGSMを旧植民地に広げ、日本は国際競争で敗けました。それはよく知られています。このときは国家間の様相を帯びていました。どの技術規格を選ぶのか、その政策や戦略に負う面も大きかった。

ところが、そのような枠から開放された第三世代=3Gは、市場やインフラの移行では日本が先んじたのに、なぜ日本のメーカーはサムソンやアップルに敗けたのか、というのです。

日本は2001年に3Gに移りました。海外には2~3年のアドバンテージがありました。当時、欧米の通信キャリアは電波オークションを導入したせいで3Gに移行するためのカネがありませんでした。逆にオークションを導入しなかった日本はdocomoやauなど通信キャリアにカネがあったから、先に3G市場を作りました。日本がオークションを導入しなかったのはキャリア力温存という側面もあったのです。ところが、なぜメーカーは、その優位を海外市場に活かさなかったのだ、というのです。

メーカーのOB・重鎮は、いろんな理由を挙げます。欧州の通信キャリアの閉鎖性、日本のスペックの高さからくる高コスト体質、GSMデュアル運用に関する経験・ノウハウ不足などなど。しかし、当時、その事情はサムソンと変わりありますまい。いや、日本のケータイメーカーはサムソンよりも圧倒的に優位にありました。でも動かなかった。サムソンは動いた。

その後iPhoneが登場し、市場はまたひっくり返りました。当時、日本の通信キャリアもメーカーもスマホを軽視していました。3Gを世界に売らなかったこと、スマホを作らなかったこと、の2点の失敗で現在に至ります。

わかっていても、日本市場が大きく、通信キャリアに依存すれば食えた面はあります。政策の適否を指摘する声もあります。でも状況とチャンスはサムソンもアップルもさほど違いはなかったはず。

それはつまるところなぜなのか。ぼくにもわかりません。

結局は「経営者」の問題に行き着くのでしょうか。

だとすると、経営者を育てるにはどうするか、という問題となります。日本はプロ経営者が少なく、社内から叩き上げてきて経営者となるため、経営者に強く意見する風土に欠けているといいます。でも、トヨタのように同族経営でも世界に伍す企業はあるし。ソニー、ホンダ、ユニクロのように創業者が経営者として世界的な企業を育てたこともあるし。

もちろんその問いへの答えをぼくは持ちあわせてはいません。そこで「学」がすべき仕事は何があるのだろうかと考えこむ次第です。

すみません。「日本のケータイメーカーはなぜ敗けた、という問い」を放り投げたまま、歯切れの悪いことで。でもこれは、日本の産業全体への問いかけでもあります。10年前からの負け戦をどう総括して、次の戦に臨むのか。しばし問い続けたいと思います。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2015年1月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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