弔問外交活発化する中東はオバマ巻き返しの試金石か --- 岡本 裕明

アゴラ

今週も様々なことが起きていますが、日本ではイスラム国での人質事件のニュースが大半を占めていますのでむしろその不足を補っていきたいと思います。

先ず、この人質事件ですが、深夜入ったニュースが本当ならば状況は更に悪化しています。安倍首相の表情もかつて見せたことがないほど厳しいものになっています。報道でなんども繰り返されていますからお気づきの方も多いと思いますが、カイロで2億ドル表明した時は得意満面でした。ところがイスラエルで事件の第一報を聞いたあとの会見はあまりの衝撃をを覆い隠せない様子がありありとしていました。今回の事件が「日本の首相」宛のメッセージだったことでその重責を感じていることでしょう。


一方、新たなる犯人からの写真を見る限り後藤氏はかなりやつれ、クマが出来ていることからこれは当初の砂漠を背景にした写真とは明らかに違い、リアル感が高いものです。先方の要求が身代金から犯罪者釈放に変わっているところも実質的な要求に変わったとみられ、今後、正面きった交渉が行われる可能性がある気がします。このニュースは世界中で大きく報道され、カナダでもいろいろな方から本件の話題を振られ、関心の高さが否が応でも高まっています。日本外交の能力の高さをぜひとも発揮してもらいたいものです。

さて、安倍首相にとってはもう行きたくない中東だと思いますが、サウジアラビアのアブドラ元国王の弔問に各国首脳が続々とサウジ入りすることになっています。特にアメリカはもともとバイデン副大統領が弔問に行くところをインドを訪れているオバマ大統領がその予定を変更し、アブドラ元国王の弔問をするとともにサルマン新国王と会談も行うことになりました。

この動きは中東外交が大きく変化する可能性を秘めています。一つはサウジの南のイエメンの過激派による大統領府乗っ取りに絡み、その勢力拡大がサウジに入り込むことを防ぐため、国境警備を強化してますが、アメリカへの支援要請をしやすくすることが背景にありそうなシナリオです。また、イスラム国に対する扱いは同じスンニ派のサウジにとっては頭が痛い所でしょう。オバマ大統領の外交下手がひっくり返せる最後のチャンスかもしれません。

石油政策については今のところ、アブドラ元国王の政策を踏襲するという事になっていますが、サルマン国王が既に79歳と高齢であり、実質的には異例の形で皇太子に選ばれたムクリン氏が割と早く国王になるのではないかと見られていることからもうしばらくは様々な推測が飛び交うことになります。

残念だったのは外交が大好きな安倍首相が日本にとっても重要なサウジアラビアに弔問に行けないという事でしょうか?外務大臣が東京のサウジの大使館に行くのが精いっぱいというのは悔やんでも悔やみきれないと思います。

さてこの週末、もう一つの大きなテーマはギリシャであります。急進左派が与党をリードする展開は変わらず、第一党の逆転の可能性は高まっています。但し、現与党の新民主主義党は連立政権樹立で政権交代はかろうじて逃れられるかもしれません。仮に政権交代があった場合、IMFとEUが多少の飴玉はくれると思いますが、大勢に変化はないはずです。以前申し上げたようにユーロ圏はブラックホールであって吸い込みはしても吐き出すことはないのです。それは金銭的損得勘定ではなく、欧州の歴史の基本である支配という発想が最前提にあるからです。それと急進左派に政権担当能力はないとされていることからEUやIMFといったツワモノと渡り合うのも難しいでしょう。そういう意味ではギリシャの選挙が仮にどちらに転んでも私は大局に影響はないとみています。

1月最終週はアメリカからGDPなど様々な重要な経済指標の発表が相次ぐほか、FOMCが27、28日と予定されています。ただちの金融政策変更はまずあり得ませんが、そのステートメントで利上げに対する言葉遣いがどう表現されるか非常に注目されます。個人的には注目点は雇用からインフレ率へ変っていくものと思われます。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2015年1月25日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。