今日(1月25日)の日本経済新聞1面の企画「医出づる国 国境を越えて4」は、医療ツーリズムで外国人を迎え入れるに当って通訳がカギを握ると書いている。
日経記事によると、厚生労働省研究班が13年10月、全国の病院を対象に実施した調査(766病院回答)で、約73%が外国人患者の受け入れに向けた課題に「医療通訳の養成」としている。それに対応している先進自治体が愛知県だ。
<約20万人の外国人が暮らす愛知県。12年に県が立ち上げた「あいち医療通訳システム」は画期的な行政サービスとして、各自治体の注目を集める。 英語や中国語のほか、ポルトガル、スペイン、タガログの各言語の医療通訳を養成・認定し、医療機関の要請を受けて派遣する。専門会社による電話通訳にも応じる。通訳者は延べ217人に達し、利用する医療機関も当初の54施設から82施設に増えた>
病名や内臓などの専門用語はもとより「シクシクとした痛みなのか」「キリキリ傷むのか」など、それこそかゆいところに手の届く通訳の役割は大きい。
だが、医療に限らぬ。今後の成長産業である訪日観光客(インバウンド客)を迎える観光業の拡大にとって通訳の育成は重要だ。
観光や仕事で訪れる人は昨年、1340万人に達したが、外国人が安心して受診できる医療機関はまだ少ない。その最大の障壁が言葉であることは言うまでもない。
私はこうした養成機関を観光業全般に広げるべきだと思っている。国家資格のガイドなど養成機関は今でもあるし、自治体のガイド養成も見られる。
ただ、国家資格を持つ観光ガイドと、自治体認定の観光ガイド、あるいは資格を持たない「ヤミ」のガイドが顧客を奪い合っていると言われる。国家資格を持つガイド団体がそれ以外の資格を認めるべきでないと政府に請願する動きもある。
その一方で、外国人が日本の観光地を十分に堪能できるだけの歴史敵、文化的素養を備えたガイドは少なく、それが欧州などに比べると、外国人観光客がまだまだ少ない理由だとも言われる。多様な国籍の外国人の多彩な要望に沿ったかゆいところに手の届く観光サービスができているのか、と疑問を呈する声が聞かれる。
私見ではガイドの認定機関は多くて構わないと考える。様々なガイドが顧客獲得競争をした方がガイドの水準が上がり、結果として訪日観光市場が拡大、ガイドの雇用創出を増やすと思うからだ。
英語やフランス語のみならず、スペイン語、中国語、タイ語、ロシア語など様々な言葉を話す通訳が競ってほしい。認定機関も政府や自治体のみならず、旅行会社の団体、旅館の団体など信頼できる民間の団体があっていい。いや、政府は規制緩和によって民間認定機関によるガイド認定を積極的に認めるべきだ。
民間業者は観光客をつかむのに熱心であり、役所よりも観光客のニーズをわかっていることが多いからだ。ガイドは認定機関ごとの免状を提示することで、競争が促進される。例えば、仕事で世界各地で駐在したビジネパーソンの退職者とその家族が現地での経験を生かし、各国の国情を理解したうえでの通訳をする。そういう人がもっと出ていい。
その競争が観光市場を拡大し、シニアの雇用も促進する。
編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2015年1月25日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。