高速道路はどうあるべきか? --- 藤田 憲彦

アゴラ

◆道路事情の改善は急務

私は、道路政策は国の基本政策に位置づけられる重要な政策だと思っています。道路政策如何によって経済の発展の度合いも変わるし、生活にも大きな影響を及ぼします。私自身は全く道路族でもなく、道路について述べることで何らのメリットも受けるものではありませんが、私自身の問題意識として道路に関して思うことを簡単に述べたいと思います。


そもそも論として、今の日本の道路事情は国際比較をした時に良好とは言えない状態だと思います。効率性を図る指標として、「都市間連絡速度」というものがありますが、日本の平均連絡速度は51km/hですが、ドイツは90km/h、フランスは88km/hであるほか、中国73km/h、韓国60km/hというデータが国土交通省から示されています。自分の経験でも、フランスは高速道路によるアクセスが極めて良く、一般道も整備されているという印象があります。

日本人の総渋滞損失は時間に換算すると年間50億時間で、移動時間の4割に匹敵します。これを労働者の数に置き直すと約280万人分の労働力に匹敵します。日本人の一人当りGDPが概ね380万円ですから、単純計算すると10兆円以上の損失に繋がっています。従って、道路事情の改善は大きな課題だと思います。

◆高速道路の役割

高速道路は東日本大震災の発生などでは救援物資や自衛隊車両、救急車両が通行する命綱となり、災害時における重要性を鑑みると、特に大規模都市間でのリダンダンシー(冗長性)は必要不可欠だと思います。例えば静岡県の富士市東部の「田子の浦」で有名な地域は、海岸線のすぐ近くに東海道本線があり、次いで国道1号線、東海道新幹線、東名高速、新東名高速が海岸線から5キロメートル以内に全て集まっています。もし東海地域で津波を伴う大規模震災が起きた場合には、主要交通網がストップしてしまうリスクがあります。

さらに、高速道路の整備においては圏央道や外環道など、都心を迂回してアクセスできる路線の整備は重要であると考えています。例えば都心環状線は、都心に用事のない車の通行量が6割という現状であり、恒常的な渋滞発生の原因ともなっています。先のドイツやフランスはそうした環状線の整備が進んでいることが移動の効率性に繋がっていることも見過ごせません。

これらは基本的に国土交通省及び関連団体の公開情報に基づいていますが、だからと言ってどんどん道路を作れと言うつもりはありません。高速道路需要は今後減少傾向にあり、将来交通量推計によると、平成17年度の実績値で7,690億台キロだったものが、平成32年度には7,330億台キロ、平成62年度には6,210億台キロとなっています。

「ミッシングリンク」という言葉があり、国土交通省が高速道路の未整備区間の整備を説明する資料には必ず登場するのですが、今後需要が減少していく中で、未整備区間を全て整備することが必ずしも正しい方向とは言えないと思います。

◆高速道路政策の変遷

高速道路は、かつて日本道路公団が建設、管理・運営を行ってきましたが、天下りや談合の温床であるとの批判を受け、今から10年前の2005年に解散し、民営化されることになりました。そして、管理・運営は東日本、中日本、西日本の3つの株式会社(通称:NEXCO)と、首都高速、阪神高速、本州四国連絡橋のそれぞれの株式会社が分担し、高速道路の保有と債務の返済業務は、独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構が行うこととなりました。

機構は保有する高速道路を各株式会社に貸し付けるという、いわゆる大家さん業を行っています。その賃料は推定交通量などから計算されることになっており、毎年賃料は変わりますが、平成26年度は合計約1.9兆円の収入が見込まれています。その収入をもとに機構は債務を返済し続けますが、その返済は現在の見通しで平成62年度(2050年度)に完了する見込みです。

同時に機構が会社から徴収する賃料もこの年度で終了します。この時点で高速道路は道路管理者である国(国土交通大臣)に帰属することとなり、高速道路は無料開放されるということになっています。そして、機構も法律で平成年77年(2065年)9月30日に解散されることが決まっています。

しかし、常に言われていることは、本当にそうなのか?という疑いの目です。事実、これまでも第三京浜など償還期間が終了し、本来無料で開放されるはずの路線が民営化に伴い高速道路の償還期間に合わせることとされてしまいました。こうしたことから、計画の変更などを理由に法律を改正し、償還期間を伸ばすことで有料化を継続するのではないか?という疑念があるのです。

◆高速道路の料金収入を一般道路財源に

私は、思い切って高速道路は構造として有料化を続け、その業務収入を一般道路の道路財源に使える仕組みを作り、道路財源の節約を仕組み化するべきだと考えます。かつての無料化実験によって、高速道路の利用意向は価格に左右されやすいということも結果として表れており、高速道路の有料制度は混雑や渋滞緩和などの道路政策のツールとしても必要不可欠であると考えます。

また、完全無料化するということは環境の面、混雑拡大のマイナス面の他に、他の交通機関とのバランスなどが再び蒸し返されることが容易に予想されます。遠い将来とは言え、その時限爆弾の装置を埋め込んで置くのではなく、国民に理解される形で有料化を継続することが本来のあり方ではないかと思います。実際、ドイツなどでも無料のアウトバーンの一部有料化や、アメリカのフリーウェイがエクスプレスウェイとして有料化されるなど、海外では無料のものが有料化される動きもあります。

そのためには二律背反ではありますが、ミッシングリンク解消という議論は、高速道路を増やすための補強材料ではなく、厳密に交通量ベースでの需要予測を行い、災害時のバックアップ体制なども含めて客観的に必要性が高いものに絞り込み、償還期間の短縮化を目指すべきだと思います。そして、有償の料金収入を一般道路の財源にも組み入れられる仕組みを導入し、一般財源の道路予算の縮減を目指すべきです。この方向においての特定財源化はあっても良いと思います。

藤田 憲彦
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