マスコミは再稼働と安全審査の違いに気づき始めた?

2015年02月13日 00:40

原発の「再稼動」問題なんて、法的には存在しない。これは私が一貫して説明してきたが、よく読むと各社の表現が微妙に変化してきた。たとえば日経はこう書いている:

原子力規制委員会は12日、関西電力高浜原子力発電所3、4号機(福井県)について、再稼働に向けた合格証にあたる「審査書」を正式に決定した。


「再稼動の合格証」ではなく「に向けた」が入っているところがポイントだ。これを入れるかどうかで、記者はデスクや整理部ともめたと思うが、そんな「合格証」は存在しない。規制委員会は新しい設備が規制基準を満たしているかどうかについての「設置変更許可」を審査しただけで、再稼動の審査なんかしていないからだ。

NHKと朝日は「再稼働の前提となる審査に合格した」と書いているが、これは明白な誤りだ。法律で再稼動の前提とされているのは保安規定と使用前検査だけだが、いずれもまだ終わっていない。前者は単なる書類審査であり、後者は試運転だから、それが始まることが再稼動である。したがって次の読売の記事が正確だ。

安全審査の合格証にあたる「審査書」を決定した。[…]ただ、残る書類の認可や設備の現地検査、地元同意などの手続きが控えており、関西電力は11月の再稼働を目指している。

規制委員会がやっている安全審査は、再稼動とはまったく別なのだ。それをリンクさせたのは田中私案というメモだけだ。おそらく原子力規制庁は記者レクで「田中委員長が決定したので適法です」などと説明したのだろうが、ちょっと調べれば原子炉等規制法にはこう書いてあることがわかる。

[原子力規制委員会は]発電用原子炉施設が第43条の3の14の技術上の基準に適合していないと認めるとき[…]当該発電用原子炉施設の使用の停止、改造、修理又は移転、発電用原子炉の運転の方法の指定その他保安のために必要な措置を命ずることができる

これが今回の改正で最大の争点となったバックフィットの規定だが、ここには「命ずることができる」と書いてあるだけで、現実には停止命令は出ていない。これは運転中に虚偽申告や欠陥が発見されたといった重大な違反についての規定だからである。原発を止めたまま審査するという異常事態は法律で想定していないので、そういう規定はない。

そこで審査手順を非公式に決めたのが田中私案だが、ここで「規制の基準を満たしているかどうかの判断を、事業者が次に施設の運転を開始するまでに行うこととする」という例外規定を設けたのは、大飯3・4号機を新基準でも運転し続けるためだった。それが既成事実になって、逆に定期検査中の原発がすべて動かせなくなった。

要するに全国の原発は、菅首相が2011年5月に「お願い」して、超法規的に止めたままなのだ。読売や日経は(たぶん)気づいていると思うが、他社が「まさか」と思うのも無理はない。ちょっと前なら記者クラブの談合でごまかせたかもしれないが、今はそうは行かない。

私がブログで「慰安婦問題はおかしい」と書いた2006年には孤立無縁に近かったが、今は逆だ。10年後に誤りに気づいても遅い。各社は再稼動と安全審査の違いについて、法律家に取材すべきだ。ほとんどの専門家が「原発停止に法的根拠はない」と答えるだろう。

もちろん法的根拠がないからといって、すぐ再稼動できるわけではない。本質的なハードルは法律でも規制委員会でもなく、法律より重い日本社会の「空気」なのである。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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