ヘッジファンドの秘匿性

森本 紀行

秘匿性は、ヘッジファンドにとっては、非常に重要な要件である。なぜなら、ヘッジファンドからヘッジは外せないからである。ヘッジの代表的な手法は、いうまでもなく、空売りである。問題は、この空売りの実態を開示することはできない相談だ、ということである。


空売りをしている人は、必ず買い戻さなければならないとういう、大きな制約を負う。もしも、空売りしていることが周囲に知れてしまったら、いわゆる踏み上げを受ける可能性がある。

踏み上げというのは、誰かが空売りしている銘柄を、別の人が逆に買い上げることである。こうなると、空売り側は、買戻しによって損失確定をしなければならなくなる一方、買い手側は、より高い価格で買い戻されることがわかるので、安心して買うことができるのである。

株式などは、まだいいのだが、債券などの発行額の限られたものとなれば、空売りの危険性は高く、それだけに、秘匿性は絶対的条件となる。

空売りの問題だけでなく、そもそも論として、ヘッジファンドの戦略の主流は、小さな価格の非効率をとりにいくものなので、売買の実態を他人に知られることは、裁定機会を失うことにもなり兼ねない。

しかし、一般の印象としては、秘匿性のなかで収益をあげるというのは、何か、ずるいというか、不公正な感じも否めない。

さて、そうか。勝負事には、チェス、将棋、碁のように、相手の手の内が完全に見えるものと、トランプ、マージャンのように、手の内を隠してやるものとの二種類あるが、市場取引というのは、どちらかというと後者に近いのではないだろうか。

市場原理は、思惑を異にした不特定多数の市場参加者の売買が価格の公正性を担保するしくみである。価格変動のなかに、市場参加者の思惑、需給関係を読み取ることが取引の基本になっているのであって、各参加者の思惑の秘匿性は、最初から前提条件である。

まさか、トランプを表にしてポーカーをする馬鹿はいるまい。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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