日本プロ野球改造論

新田 哲史

神宮球場
どうも新田です。今シーズンは、楽天デーブルスの「やまもと効果」を生温かく見守りたいと思います。ところで今宵はプロ野球開幕なわけですが、ブログ表題になっている本を改めて読み返してみました。

日本プロ野球改造論 (ディスカヴァー携書)
並木 裕太
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2013-03-16


著者は日米をまたにかけてご活躍のスポーツコンサルタント、並木裕太さん。本書が出たのはもう2年前で、日経ビジネスオンラインで好評だった連載記事がベースになっております。今となってはとても信じられないのですが、野茂投手が近鉄からドジャースに移籍した90年代半ば頃までは、NPBとMLBの総収益は同じ1400億円規模でした。十数年経ってNPBは横ばい、一方のMLBは6000億円規模にまで急拡大してしまう等、なぜこれだけの格差が付いてしまったのか、日米の比較を軸に多角的に分析しております。

同書の副題は「日本プロ野球は、日本産業の縮図である!」。この言い得て妙な表現、もともとは三木谷さんも球界参入時の心境を振り返る中で「プロ野球界というのは日本社会の縮図」(「原点ノート」)と述べておりまして、目線が同じなのが興味深いところです。たとえば日米格差への言及。並木さんは、NPBの現状について「外にいる本当の敵に気付いていない構図」として、アジア勢にシェアを奪われた日本のエレクトロニクス業界を挙げております。

日米格差の最大の要因は、放映権の一括販売を始めとする全体最適重視のMLB方式(リーグビジネス)と、親会社の権益優先という部分最適重視のNPB方式(チームビジネス)によるものですが、NPBがMLBのグローバル戦略に腹をくくって向き合っていない状況は、著者の言う通り、日本の凋落産業を彷彿とさせるものがあります。

放映権ビジネスや球界一体でのネット動画事業化の遅れ、スター選手のメジャー流出など、本書で指摘された課題の根本的な部分は、2年前と変わっていません。昨年はキューバ代表選手の日本移籍が解禁され、MLBと異なるグローバル戦略の端緒になるかもしれないと期待された矢先、DeNAグリエルの再来日に暗雲が漂い、アメリカ・キューバの国交正常化の可能性も絡んで結局、一流選手はメジャーに持って行かれるのではないかと微妙な展開になっております。

ただ、一方で、2年前と比べて変革への着実な胎動を感じられます。
以前、編集の企画に携わった東洋経済オンラインの連載「野球イノベーション」でもご紹介させてもらいましたが、侍ジャパン常設化を機に事業会社(NPBエンタープライズ)を作り、プロ・アマの壁を打破し、ビジネス面から長期的に野球界の発展へとつなげる体制がようやく整ってきました。また、2020年東京オリンピックでの野球復活にも望みが出ており、これが実現したときの野球界への追い風は計り知れないものでしょう。

本書の続編は、“キューバ問題”の行方や、侍ジャパン事業、五輪復活の成否など新しい展開を待ってからになるかもしれませんが、今日のプロ野球のビジネス上の構造問題を俯瞰する上で、参考になるだけでなく、野球界という“鏡”を通して、変わりたくても中々変われない日本の政治・経済・社会を考え直すきっかけになるかもしれません。ではでは。

(追伸) 2015年順位予想
セ ①広島②巨人③ヤクルト④阪神⑤DeNA⑥中日
パ ①オリックス②ソフトバンク③西武④楽天⑤ロッテ⑥日本ハム

新田 哲史
ソーシャルアナリスト/企業広報アドバイザー
個人ブログ
ツイッター