個人事業主のマイナンバーは買うことができる

川嶋 英明

社会保険労務士の手続業務を根こそぎ奪っていくのでは、と言われているマイナンバー。社労士にかぎらず、個人情報の保護に絡めていまだにこの制度に文句言ってる人たちが多くいますが、ただ、そうは言っても制度導入はすでに待ったなしの状態。通知カードが今年の10月以降に送られてくる以上、受け入れるところは受け入れていかないといけません。


で、実は社労士にかぎらず会社ではなく個人で事業を行う人からすると、このマイナンバーが自分の事業を行う上での思わぬハードルになるかもしれません。と言うのも、個人で事業を行っている人には馴染み深い「支払調書」というものがありますよね。仕事をもらった先、つまり、報酬支払い先が作成するものです。会社によっては個人事業主に発行しないところもありますが、その場合も報酬を支払った側は税務署への提出義務はあります。

実はマイナンバー制度が始まると、この支払調書に、お金をもらう側である個人事業主のマイナンバーを記入する必要がでてきます。つまり、個人事業主は自分のマイナンバーを自分のお客さんに提供しないといけないわけです。

これが会社勤めなら、自分の会社にマイナンバーを提供するだけで済みます。しかし、個人事業主だと報酬をもらう先がいくつもあるのが普通で、それだけマイナンバーを提供する先が増え、その事務委託先等にも拡散してしまうわけです。

わたし個人のことを言わせてもらえば、わたしは自分の顧問先については信用しているし、付き合いが長い所も多いので情報が漏れるということについて心配はしていません。それに仮にもわたしは自分が社労士なので、顧問先の就業規則を改定したり、マイナンバー取扱いの安全規定を作成することで、ある程度自分のマイナンバーを自分で守ることができます。

しかし、それ以外の業種の個人事業主の場合、相手が大手だったりで、マイナンバーの規定や契約書をきちんと作っているようなところならともかく、就業規則もなければ仕事の際に契約書もろくに作ってこないような相手に、いくら報酬のためとはいえ、そうホイホイと自分のマイナンバーを提供できるかというと、抵抗がある人も多いのではないでしょうか。また、これとは逆に自分のマイナンバーを提供するには不安のある相手にも、お金のために仕方なく自分のマイナンバーを提供しないといけない、という場面もあるはずです。

これを悪意あるものの立場に立てば、相手が個人事業主なら、仕事を与えるという名目や支払調書を作成するという名目で個人事業主のマイナンバーを簡単に集めることができる、と考えるでしょう。より刺激的な表現をするならマイナンバーを堂々と「買う」ことができるわけです。

これが法人なら、一般公開される法人番号で支払い等の書類は作成可能なのですが、いかんせん個人事業主は個人番号の方を使わざるをえません。せめて、法人番号のような個人事業主番号みたいなものがあればなあ・・・、とも思うんですが(個人事業主税だってあるんだし)。

勘違いしてほしくないのは、わたしは基本的にマイナンバー導入については賛成の立場です。年金と健康保険と雇用保険でぜんぜん違う番号を使う意味なんて全くないし、マイナンバーを機に紙から電子への動きを加速させ、役所のくだらない印鑑主義も終わらせてほしいと思っています。けれども、会社や雇用者と比較して、その中間的なところにいる個人事業主だけ、マイナンバーの運用にいらないリスクやコストを負わなければならないのが納得いかないだけです。

川嶋英明(社会保険労務士)