燃料電池車と電気自動車、次世代の標準を握るのはどちらか

2015年04月08日 23:53

昨年12月15日、トヨタ自動車が世界初となる量産型の燃料電池車(FCV)「MIRAI」の発売を開始したのに続き、今年1月6日には同じくトヨタが燃料電池関連の特許実施権約5680件を無償で提供すると発表した。そのため、トヨタのFCVへの取り組みは単なるパフォーマンスではなく、水素社会の実現に向けて本格的に動き始めた証左だとされ、今年2015年は「水素元年」になると話題になっている。その一方で、アメリカのシリコンバレーに拠点を置く電気自動車(EV)メーカーであるテスラ・モーターズのイーロン・マスクCEOは、今年1月13日にデトロイトで行われた北米自動車ショーにおいて、FCVのコンセプトを馬鹿げたものだと批判している。その主な理由は、水素でエネルギーを貯蔵することによるエネルギー効率の悪さと、水素の貯蔵・運搬の難しさなどだ。果たして、次世代のエコカーの標準を握るのは、FCVとEVのどちらであろうか。

私はFCVに関しては、日本が技術的優位を持っている上、関連する要素技術も多く雇用創出効果も大きいと見込めることから、FCVが次世代のエコカーの主流となることが日本経済に資すると考えている。このような論点は、倉本圭造氏によるアゴラ記事「燃料電池車による水素社会実現と格差問題の意外な因果関係」でも触れられている。しかし、これらはあくまでも生産者側の理屈に過ぎない。消費者にとっては利便性が、社会全体にとってはエネルギー効率や環境性能がEVと比べて優れていなければ、FCVを推す説得力のある論法とはならない。したがって実際にFCVが普及するためには、これらの点が競合であるEVと比べて優れているかどうか、科学的・技術的観点から十分に根拠を持った形で検証する必要がある。

なお、水素がエコで持続可能なエネルギー源だという誤解があるが、水素自体は自然界にはそのままの形ではほとんど存在していないため、水素は一次エネルギー源ではなく、電力と同じく二次エネルギーに過ぎない。したがって、水素がエコなエネルギー源となるかどうかは、水素をどのようにして製造するかによって変化する。現在、工業上の実用レベルでは水素は化石燃料から取り出しているので、持続可能なものではないし、製造過程でCO2も排出する。水素を真にエコなエネルギー源とするためには、再生可能なエネルギー源を利用して水を水素と酸素に分解し、水素を回収することが必要となる。前回の記事「光触媒を用いた人工光合成の可能性」では、光触媒を用いて太陽光で水を分解し水素を得る方法について紹介した。この方法は、低コストで水素製造装置を展開できる可能性を秘めているが、エネルギー変換効率がまだ実用レベルには達していない。現状では、再生可能エネルギーで発電した電力を用いて水を電気分解することが、「エコな」水素を得るほぼ唯一の方法だ。以下では、FCVで用いる水素燃料は、このようにして得られた「エコな」水素であることを前提とする。この場合、FCVとEVの性能を比較する上では、どちらもエネルギー源として電力を出発点に考えることになる。したがって、将来のエコカーの主流としてFCVとEVを比較する上で検証すべき点は、以下の点である。

1. 充電・放電の際のエネルギー損失
電力はそのままの形では貯蔵できないので、FCVもEVも電力を化学エネルギーの形に変換した上で貯蔵している。FCVでは水素の形で、EVでは蓄電池の形でだ。電力を化学エネルギーに変換(本稿ではこれを「充電」と呼ぶ)する際には、必ずエネルギー損失がある。EVの場合は蓄電池への充電、FCVの場合は水の電気分解だ。また、化学エネルギーを再び電力に変換(これを「放電」と呼ぼう)する際にも、同様にエネルギー損失がある。EVの場合は蓄電池からの放電、FCVの場合は燃料電池による発電である。この充電時・放電時のエネルギー損失が小さい方が、総合的なエネルギー効率が優れていることになる。ただし、FCVの充電については、電力から水素へのエネルギー変換効率だけでなく、水素を貯蔵可能な形にする(水素タンクに収容するために加圧する・水素吸蔵材料に貯蔵する)際に必要なエネルギーやエネルギー損失なども考慮に入れる必要がある。

2. 単位体積あるいは単位重量あたりのエネルギー貯蔵量
水素の形でエネルギーを貯蔵する場合と、蓄電池の形でエネルギーを貯蔵する場合に、どちらが単位体積および単位重量あたりのエネルギー貯蔵量が大きいかを検証する必要がある。この場合、貯蔵量が大きい方が航続距離の面で有利だ。なお前項で触れたように、FCVにせよEVにせよ、燃料電池や蓄電池から電力を取り出す際にエネルギー損失が生じるので、このエネルギー損失率も考慮した形で比較するべきだ。また、航続距離に対する影響を正確に評価するには、FCVの場合は水素貯蔵装置だけでなく燃料電池の体積や重量なども考慮する必要があるだろう。

3. 単位時間あたりに充填できるエネルギー量
水素を充填する場合と、蓄電池に充電する場合とで、単位時間あたりに充填できるエネルギー量がどちらが大きいか検証する必要がある。要するに、同じエネルギー量を自動車に充填するときに、FCVとEVでどちらが速いかということだ。

4. 単位時間あたりに取り出せるエネルギー量
燃料電池による発電と蓄電池からの放電とで、どちらが電力を取り出せるスピードが速いかを検証する必要がある。このスピードが速いほうが、加速性能に良い影響を与える。さらに言えば、そのスピードを変化されられる速さも同時に比較すべきだろう。これは全般的な操縦性能に影響を与える。

5. 貯蔵中のエネルギー損耗率
水素として貯蔵するにせよ、充電池として貯蔵するにせよ、エネルギーを貯蔵しているときにはわずかながらではあるが漏洩が生じる。水素は分子の大きさが極めて小さいので、タンクやパイプの小さな欠陥からでも漏洩が生じやすいという欠点がある。また、充電池からは未使用中であってもわずかな放電があり、電力が消費される。FCVとEVのどちらがエネルギーの損耗が大きいかを検証する必要があるだろう。

6. 燃料電池および蓄電池の使用寿命
燃料電池にせよ蓄電池にせよ、使用を繰り返しているうちに電極に用いる触媒などの劣化が起きる。使用回数ごとの劣化の速さをFCVの燃料電池とEVの蓄電池で比較する必要があるだろう。

以上が、FCVとEVの利便性やエネルギー効率・環境性能を比較する上で検証すべき物理量である。これらの量を比較すれば、FCVとEVのどちらが優れているか、科学的・技術的観点から客観的・数値的に検証できる。これらの値を具体的に検証したわけではないが、現状では大まかに言って、1. エネルギー効率についてはEVに、2. 航続距離 および3. エネルギー充填スピードについてはFCVに軍配が上がるようだ。4. 操縦性能5. 貯蔵エネルギーの損耗率6. 使用寿命については私は詳しくはわからない。

ただし、利便性についてはこれだけで決まるわけではない。たとえばEVの不利な点である2. 航続距離に関しては、水素スタンドに比べてEV充電用スタンドの方が設置は容易であろうことから、スタンド数を多くすることによって不利を補えると考えることができる。路線バスなどの移動経路が決まった公共交通機関用であれば、EV内部と移動経路となる路面下に受電用・給電用コイルをそれぞれ埋め込むことで、電磁誘導を利用した非接触給電なども利用できる。また、EVは3. エネルギー充填スピードについてもFCVに対して不利であるが、EVの充電用スタンドは家庭や駐車場などにも比較的容易に設置できるであろうことから、クルマを使用しない時間帯にゆっくり充電すれば実用上問題ないと考えることができる。さらに、テスラ・モーターズのマスクCEOは、蓄電池をカートリッジ式にして、蓄電池ごと交換するようにすれば問題ないとしている。

一方、FCVの不利な点であるとされる水素の貯蔵・運搬の難しさに関しては、水素を材料にしてメタノールなどの有機液体燃料を合成するという解決策が考えられる。燃料電池には水素を燃料に用いるタイプだけではなく、メタノールを燃料として用いるタイプのものもある。メタノール燃料電池の場合は発電中に水だけではなくCO2も排出することになるが、メタノールを合成する際の材料として「エコな」水素とCO2を用いることにすれば、差し引きでCO2排出量はゼロとなる。もちろん、この場合には上記の比較すべき点は、水素燃料電池ではなくメタノール燃料電池を用いる場合について考えることになる。特に、1. エネルギー効率については、水素とCO2からメタノールを合成する際のエネルギー損失なども考慮に加える必要が出てくるだろう。

今回の記事では、次世代のエコカーの標準としてFCVとEVのどちらが有利かについて、FCVとEVとで科学的・技術的観点から数値的に比較検証すべき点を挙げ、そのうちのいくつかについてはどちらが有利か大まかな傾向を述べた。具体的な数値比較は行っていないので、そちらに関してはまた機会があれば検証してみたい。

東京工業大学
青木祐太

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

関連記事

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑