IT政策研究会:ドローンとIoT --- 中村 伊知哉

「官邸サンタ」というひとのおかげで、ウチの近所は大騒ぎです。オフィスも自宅も、そのあたりなもんですから。大勢のおまわりさんたちが、空をジロジロ見ています。
ドローンへの関心を高めたヒーローでしょうか。警備への警鐘を鳴らした善行でしょうか。規制強化を早める不届き者でしょうか。反原発に泥を塗る行為でしょうか。


ちょうど、近くのオフィスで、ドローンの議論をしていました。
スタンフォード大学とKMDの共同プロジェクト「IT政策研究会」。
スマホ、クラウド、ソーシャルによる「スマート化」から、IoT、ロボティクス、インテリジェント、ビッグデータからなる次のステージに入りました。ではIT政策のアジェンダはどう変わるのか。これが議論のテーマです。
ネット・地デジのインフラ整備とコンテンツ振興という過去10年の政策が次のステージに進む。その柱は何か。通信競争政策、NHK受信料見直し、セキュリティ、個人情報保護、TPP。その次は?

そこで、西海岸でITをずっと見続けている小池良次さんに、米FAAのドローン・ガイドライン案を解説してもらいました。
これによれば、規制が強くて、Google、アマゾンの配達ドローンは困難となります。これからどこまで緩むのか。日本はどうするのか。
自宅の敷地、公共施設をドローン飛行区域に指定・登録するNo Fly Zoneについても説明してもらいました。これはどこまで有効で、どこまで広がるのか。全国が登録されてしまうとどうなるでしょう?
逆に、無数のドローンが低空に飛ぶ事態を想定すると、どういう管理・ルールになるでしょう。アメリカでもこれから多くの省庁・自治体が絡んできそうです。特に通信/電波を所管するFCCの動静が気になります。
日本は航空法に基づくルール化が取り沙汰されつつ、官邸のロボット革命実現会議で議論されています。つまり国交省vs経産省の構図。総務省も電波政策で絡んできています。
どういう動きになるでしょう。
アメリカが規制色を強くするなら、日本は緩く行きませんか?北海道、沖縄、原発避難区域などドローン特区にどうです。東京は竹芝CiPが手を上げます。

そんな議論をしている最中の、官邸事件でした。
これまでは、アメリカの規制強化を横目でにらみつつ、産業振興をベースに考えてきたのですが、残念ながら一辺倒では進まなくなりそう。
さっそく航空法改正による管理強化策や登録制などが政権から立ち上っています。野党も同調、あっという間に規制が入る空気が漂います。

そして、東大・稲田修一さんに「情報革命とスマート製造業の実現」について話してもらいました。IoTが全産業に浸透する議論です。
ドイツ科学技術アカデミーIndustrie4.0の話に引き込まれました。製造業のIoT化、スマート工場の実現。ドイツが中小企業の活性化策として導入を進めています。
GEが食品製造にIoTを持ち込んだところ、生産量と商品開発速度がどちらも30%向上したといいます。スゴい成果ですね。
稲田さんの政策インプリケーションは、最も非効率なセクターである行政にIoTを持ち込むこと。つまり、オープンデータによる業務連結です。
多くの企業をつなぐIoTはセキュリティがカギ。ところが日本はその恐怖心が強い。抜本的な対策が必要になります。
ドローンも同様ですが、セキュリティ対策に手を打ちつつ、いかに使いこなすか。アメリカの動きもドイツの動きも、日本に対して姿勢を問うものです。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2015年4月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。