原子力規制委に欠ける基本運営原則-独善は混迷を生む

2015年04月30日 23:31

photo大野崇
エネルギーを考える会会員 元三菱重工

少し旧聞となるが、事故から4年目を迎えるこの3月11日に、原子力規制庁において、田中俊一原子力規制委員会委員長の訓示が行われた。


「福島に暮らしている方は何を思ってお過ごしになったでしょうか。本日は、長い避難生活を余儀なくされている方々の生活に思いを馳せ、原子力事故を二度と起こさないという自覚を新たにして欲しい。」と述べ『福島原発事故の教訓に学び、人と環境を守る』理念を堅持すると強調した。

福島県飯舘村の御出身である委員長個人の思いとしては理解できるが、原子力規制委員長として、事故から4年目を迎えて、今後の規制の舵をどう取るかを示すことを期待していたものにとって、精神訓示に終始する発言にむなしいものを感じた。

これまでの原子力規制委員会の規制活動に対しては、2012年9月19日発足から2年半が経った今でも、以下のような指摘がなされ改善が要望されている。

1・立地県知事からの面会要請を拒否し、敦賀2号活断層判断に対する地元からの説明要望を拒否する等、国民との対話、コミュニケーション、説明が不足である。

2・新規制基準適合審査において事業者からの要請を拒否する、活断層評価有識者メンバーから過去の安全審査に関わった専門家を排除する等、独立性、中立性に懸念が残る。

3・一人の担当委員の出した結論を、十分な議論をしないで委員会決定としてしまうなど、
「合議制」の形骸化が懸念される。

4・新規制基準のような重要案件を規制庁がどういうプロセスで作成し委員会向けに提案するかの実態が不明確、規制庁と委員会メンバーとの間でどういう議論がなされているのかの実態が不透明など、原子力規制委員会と事務局<原子力規制庁>との関係が不明確である。

5・新規制基準の審査会合や破砕帯に関する調査などにおいて、法定化されている原子炉安全専門審査会などを関与させず、法的位置づけが曖昧な有識者会議を組織する等、適正手続き・透明性に懸念が残る。

なぜ、指摘が絶えないか。私は、示されている組織理念とそれを具体化する5つの活動原則が抽象的で具体性を欠き、また、実現するための行動指針が文書化されていないため、委員長個人の判断でものが動くことが要因と思っている。

また、3条委員会であるが故に第3者が規制活動に口を挟み難く、法的なチェック組織も明確でないため、原子力規制という大きい問題にも関わらず第三者チェックが働かないことも要因と思っている。

さらに米国の原子力規制委員会(NRC)の「NRC’s Principles of Good Regulations」(良い規制の原則)と比べて、活動原則に、「規制の効率性」、「規制の明瞭性」、「規制の信頼性」が欠けているのも問題である。

NRCの「良い規制の原則」と比べ、規制原則についてもう少し考察したい。

約25年前は、NRCも、今の日本の規制状況と同じく、市民団体からは、産業界と「親密」すぎ、市民団体の声を無視する、産業界からは、対応が遅すぎ、不必要に厳しい要件を課す、そしてそれを勝手に変更すると批判されていた。NRC内部では、「独立は孤立だと考えるスタッフや管理職がいて、人前で産業界の人と話をするなという状況にあった。

これを是正するために、自浄努力として「NRC’s Principles of Good Regulations」(良い規制の原則)が策定・発表された。この原則を、NRC内にキャンペーンし、浸透努力を図った結果、今では、「良い規制の原則」がNRC内部に行動指針として定着し、よりよい機関、よりよい規制当局に変身することに成功し、プラントの計画外停止は少なくなり、稼働率は飛躍的に高まったと聞いている。すなわち、原子力規制活動が、事業者や市民からも信頼され、原子力の安全文化が良質なものに変質し、事故・トラブルが少なくなったのである。

文末ににNRCと日本の原子力規制委員会の規制原則の比較を示す。

どちらも、5つの原則であるが内容は大きく異なる。主要な相違点を以下にあげるが、私は、規制原則が明確でなく不備であることが、無駄に審査に時間を要し、再稼働の遅れ要因と考えているので、各方面からの指摘事項に耳を傾け、1日でも早く規制原則を見直し、運用することを期待する。

独立性

日本の規制委では「何ものにもとらわれず、科学的・技術的見地から、独立して意思決定を行う」とあるが、どうすれば周囲と協力しながら独立性を維持して仕事ができるのかが示されていない。

NRCでは、「独立性は孤立を意味するものではない。認可取得者及び利害関係のある市民から広く事実や意見を求める必要がある。公共の利益は多岐にわたり、互いに矛盾することもあるが、これを考慮しなければならない。全ての情報を客観的かつ公平に評価した上で最終決定を下し、理由を明記した上で文書化しなければならない。」と明記している。

わが国の現状は、福島事故前の規制体質批判を恐れる余り、「事業者の主張に理解を示すことは激しい批判を受ける」、「事前審査を充実させることは「秘密主義」と指摘され批判される」として、審査プロセスにおいて事業者に頑固な姿勢を示すことが独立性を示すのだという間違った意識で、適合審査に臨んでいる。(基準地震動や活断層審査等で事業者の意見を合理的説明せずに排除)

開放性

日本の「意思決定のプロセスを含め、規制にかかわる情報の開示を徹底する。また、国内外の多様な意見に耳を傾け、孤立と独善を戒める」とあるが、日頃の委員長発言を見ると会議映像を公開することで「透明性」確保の役割を果たしていると勘違いしているのではないか。

「透明性」とはどういうデータに基づき、どういう判断基準に照らして、どういう論理で決定したかを対外的に説明することであり、これまで対外的説明責任を果たしておらず、知事からの説明要望に対しても、会う意味がないとして面会を拒否している。NRCと同じく、説明責任を義務化すべきでないか。

効率性

規制原則に「効率性」の概念がない。「新規制基準に適合しているか否かを審査することのみが規制活動である」とし、規制により達成されるリスク低減の度合いに対策が見合ったものとなっているかの説明を一切しようとしない。コストも含め、新規制基準に適合させるか否かは事業者の判断で、規制側の問題ではないとしている。また、設置許可変更審査に2年近く要していることに対しても、事業者の対応に問題ありとして、審査の効率化を顧みることがない。 NRCのいう、「規制は国民に対し効率的であるべき」との概念は我が国の規制概念にも取り入れるべきと考える。

信頼性

規制原則に「信頼性」の概念がない。静的機器の二重化や難燃ケーブルへの取り換えなど、従来の基準を、合理的議論・説明なしに変更を要求するなど、規制の「信頼性」に問題が見られる。NRCのいう、「制定後は信頼性の高い規制として受け止められるべきであり、不当に移行状態にすべきではない。」の概念は我が国の規制概念にも取り入れるべきと考える。

参考として、米NRCの「Principles of Good Regulation」と日本の原子力規制委の原則を併記する。

米NRC・Independence(独立性)
「最高レベルの倫理観と専門性以外の何ものも規制に影響を及ぼすべきではない。ただし、独立性は孤立を意味するものではない。認可取得者及び利害関係のある市民から広く事実や意見を求める必要がある。公共の利益は多岐にわたり、互いに矛盾することもあるが、これを考慮しなければならない。全ての情報を客観的かつ公平に評価した上で最終決定を下し、理由を明記した上で文書化しなければならない。
(背景)どうすれば周囲と協力しながら独立性を維持して仕事ができるのか、より明確に示す必要性があった。独立は孤立の中で働くのでなく、批判や審査に耐える意見を纏めるため、むしろ、全てのStake Holderと接し、全ての事実を収集し、全ての目線を理解することを意図した。」

日規制委・独立した意思決定
何ものにもとらわれず、科学的・技術的見地から、独立して意思決定を行う。
(筆者コメント)現状は福島事故前の規制体質批判を恐れる余り、「事業者の主張に理解を示すことは激しい批判を受ける」、「事前審査を充実させることは「秘密主義」と指摘され批判される」として、審査プロセスにおいて事業者に頑固な姿勢を示すことが独立性を示すのだという間違った意識が規制委内部に生じている。

米NRC・Openness(開放性)
原子力規制は市民の課題であり、公的かつ率直に取り扱われなければならない。法に定められているように、規制プロセスを市民に伝え、市民が規制プロセスに参加できる機会を設けなければならない。議会、他の政府機関、認可取得者、市民、さらには海外の原子力界と開かれたコミュニケーション・チャンネルを維持しなければならない。
(背景)NRCは、市民が規制プロセスに参加する機会を設ける法的義務があり、職員は「公僕」としてその役割を認識はしていたが、市民との交流を「実務」の妨げと捉える人がいた。そのため、市民に対する開放性を基本原則として取り上げ、そしてNRCの活動を市民に伝えることだけでなく、市民の声に耳を傾けることも原則に加えることとした。

日規制委・透明で開かれた組織
意思決定のプロセスを含め、規制にかかわる情報の開示を徹底する。また、国内外の多様な意見に耳を傾け、孤立と独善を戒める。
(筆者コメント)現状は会議映像を公開することで「透明性」確保の役割を果たしていると勘違いしている。「透明性」とは、どういうデータに基づき、どういう判断基準に照らして、どういう論理で決定したかを対外的に説明することである。知事からの説明要望に対して、会う意味がないとして面会を拒否。

米NRC・Efficiency(効率性)
米国の納税者、電気料金を支払っている消費者、認可取得者は皆、規制活動の管理・運営が可能な限り最良の状態であることを求める権利がある。最高の技術力・管理能力が求められ、NRCは常にこれを目指すものとする。規制能力を評価する手法を確立し、継続的に改善していかなければならない。規制活動は、それにより達成されるリスク低減の度合いに見合ったものであるべきである。有効な選択技が複数ある場合は、リソースの消費が最小となる選択技をとるべきである。規制の判断は不必要な遅れが生じないようにすべきである。
(背景)政府とはそもそも非効率なものだと考える人もいるが、そうあるべきでない。公務員は、納税者のお金を効率的かつ効果的に使わなければならないし、政府が非効率であれば、その分、許認可を受ける側にコストが発生する。規制措置の遅れや、リスク低減に釣り合わない規制は、全てコスト発生原因となる。そのため、規制活動はそれによって得られるリスク低減の程度に見合ったものでなければならないと明示した。また、「時は金」であるから規制の判断に不必要な遅れがあってならないとした。ただ、ぞんざいな審査は許されないので不必要なという言葉にそのニューアンスを含ませた。

日規制委・上記に対応する原則なし。
(筆者コメント)「新規制基準に適合しているか否かを審査することのみが規制活動である」と勘違いし、それにより達成されるリスク低減の度合いに見合ったものとなっているかの説明を一切しようとしない。コストも含め、新規制基準に適合させるか否かは事業者の判断で、規制側の問題ではないとしている。また、審査の長期化も事業者の対応に問題ありとして規制の効率化に取り組む姿勢が見られない。

米NRC・Clarity(明瞭性)
規制は、一貫性があり、論理的で、実用的であるべきである。規制とNRCの目標・目的との間には、明示的か黙示的かを問わず明瞭な関連性があるべきである。NRCの見解は、理解しやすく適用しやすいものであるべきである。
(背景)この原則は言わずもがなであるが、政府発行の文書は非常に分かり難い言葉で書かれていることが多々あるため、分かりやすく書くべきであるということを原則として記載することとした。さらに、規制そのものに一貫性、論理性、実用性があり、かつ、規制はNRC全体の目標や目的に合ったものでなければならないことを加えた。

米NRC・Reliability(信頼性)
規制は、研究および運転経験から得られるあらゆる知識に基づいて制定されるべきである。リスクを許容可能な低いレベルに抑えるため、系統間相互作用、技術的な不確かさならびに認可取得者および規制活動の多様性を考慮しなければならない。
(背景)規制が変化し続ける環境で、NRCに対応してくことがいかに大変かということが事業者から常に指摘されていた。NRCが一年も経たないうちに規則を変えるかもしれないとしたら、事業者はどのような投資をしたら良いか迷う。即ち、この原則の確信は、規制はできる限り安定したものであるべきだということである。ただ、「安定性」は「不変性」でないので、規制は「不当に」移行状態にすべきではないとし、リスクを顕著に低減できる場合にのみ変更すべきとした。
また、規制は、得られる最高の知識に基づきあらゆる影響を考慮しなければ、信頼のあるものにならないので、最初に記載した。さらに、NRCの行動は全て規則に従っているべきで、できる限り迅速かつ公正に実施するべきであることも加えた。

日規制委・上記2つに対応する原則なし。
(筆者コメント)従来合理的議論の末認められていた基準を、合理的議論・説明がなく変更を要求している。

注1:「NRCの『良い規制の原則』」より引用。
注2:原子力規制委員会ホームページ「原子力規制委員会の組織理念」より引用。

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