学者の藤井聡さんがなぜ都構想反対の先頭に立つのだろうか?

防災の学者である藤井聡教授に関しては、テレビのバラエティ番組にでてくる髭の学者の人という印象しかありませんが、大阪都構想反対の先頭にたっておられて、かなり無理筋の主張を展開されています。それが住民投票が近づくにつれますますエスカレートしてきたのか、もともとそうであったのかは存じあげませんが、ダイヤモンドに投稿されたコラムには鬼気迫るものを感じます。
「都構想」は大阪の衰退を決定づける“論外の代物”|DOL特別レポート|ダイヤモンド・オンライン


ところで藤井教授の論争のしかたは独特ですが、その流儀をうまく見抜いて指摘されていたのが北村隆司さんでアゴラで書いていらっしゃいました。

藤井教授の特徴の一つは、相手の批判には「虚つき」だと決め付けて「喧嘩」をふっかけながら、肝心の論議、説得、対話などの努力を避ける事である。

都構想3:藤井はん、大阪人は嘘かほんまか知ってまっせ : アゴラ –

橋下市長から提案された公開討論を藤井教授は「公開討論要求は公権力による言論圧殺だ!」と言って逃げてしまいました。きっと面白かったに違いないのにです。

都市工学の教授というとなにか地方政治の専門家と誤解を招きそうですが、ソフトを考えないわけにしても、どちらかというとハードを扱う都市工学とハード・ソフトのいずれもを動かす自治体の運営や都市経営は畑が違うので藤井教授は地方自治の専門家とはいえないのでしょう。

経済に関しては、とにかく規制緩和には大反対、日本は需要不足が不況の原因なので、じゃぶじゃぶ公共事業をつぎ込めば日本の景気が回復するというちょっと特殊な考え方、さすが土木だという感じの考え方をお持ちですが、それにしても、なぜ学者としてのインテリジェンスが疑われてもしかたない危うい都構想反対の主張の先頭に立たれるのかが不思議でした。
藤井聡さんの基本的な認識の間違いについては、高橋洋一さんが指摘されていますのでそちらを参考にしていただきたいと思います。
橋下徹・大阪市長vs.内閣官房参与の 大阪都構想めぐるバトルが、案外面白い  | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス

藤井教授の主張は、突っ込みどころ満載なのですが、たとえば、二重行政に関して、大阪市と大阪府との関係と他の政令都市と道府県との関係の違いとか、「府市あわせ(不幸せ)」と揶揄される対立・対抗の歴史とかを無視してどなたかの発言を引用してこう語られるのです。

「道府県と政令市とのいわゆる『二重行政』については、多くの場合ほとんど問題になっていないことから、そもそも政令市を解体する理由にはならない」

しかも、そもそもこれだけ東京への一極集中が進んだのは政令都市制度が成功していないからではないかというところまでは、思いが至らないのでしょうか。

東京都が成功してきたのは本社機能が集中しているからで東京都というカタチではないというのも、それは結果論です。原因と結果を混同しています。なぜ本社機能が東京に集中してしまったのかを問わないところも奇妙です。私自身は、官僚支配が強い国で首都機能が東京にあったこと、また東京が産業や市場の規模で優位に立ったからだと考えています。これは小売業の商圏とか産業の集積地間の綱引きの力学から考えると容易に想像できます。

多数の学者が反対しているから都構想は駄目だというのも変な理屈です。権威主義そのものです。理由が薄弱なのです。

ダイヤモンドでの藤井聡さんのコラムのタイトルが、大阪都構想は、大阪の衰退を決定づける“論外の代物”とあったので興味をもったのですが、なぜ大阪が衰退してきたのかの原因についての分析や、どうすれば衰退に歯止めがかかるのかのアイデアがまったくなかったところが残念なところでした。感情で反対しているという印象しか受けません。

そうやって眺めてみると、橋下市長と藤井教授はもともとなにか別の理由で対立する立場にあるから、都構想問題で無理筋とわかっていても反対だと煽るのかと勘ぐりたくなります。

それで都構想問題以外に、どこで対立が始まったのかとかと検索してみると、すぐにわかったことがあります。藤井教授は熱心な原発再稼働推進派でした。
藤井聡:日本を守るために,原発再稼働の道を真剣に探るべし | 京都大学 都市社会工学専攻 

一方の橋下市長は再稼働慎重派。どちらかというと反対の立場です。関電の株主総会に乗り込んで経営陣批判をしたことはご記憶にのこっていると思います。
関電、脱原発訴える株主提案否決 橋下市長は経営陣批判:朝日新聞デジタル

橋下市長の原発再稼働問題、関電との対立は、結構尾を引いていると感じることがあります。橋下市長や維新の会が関西の中小企業からは支持されていても、関西の財界との関係が薄いのも関電との対立が原因かもしれません。普通なら、それはそれ、こちらはこちらとなるのでしょうが、残念ながら関西の財界は維新とは距離を置いています。

かつて、阪急の創始者である小林一三が、官僚の全国一律の復興計画では大阪復興にはならないと、大阪の経済界の人びとの協力をつくりだしたのと、今の大阪都構想のススメ方の違いはそこにあるように感じます。アゴラでの北村隆司さんの都構想に関する連載コラムが秀逸ですが、橋下市長の味方づくりの弱さに関しても触れられています。
都構想9:橋下はん、敵より味方を増やしなはれ : アゴラ –

いずれにしても、原発再稼働反対の立場に立つ橋下市長を危険人物とみなして、喧嘩をふっかけ、都構想をも潰そうと藤井教授が走ったとすればこの喧嘩の構図が理解できます。ただ、それなら原発問題に絞って論争すればいいのにと感じてしまいます。

違うというのなら、藤井教授には、ただ反対を叫ぶのではなく、どうすれば大阪の未来を切り開けるのかのビジョンを示していただきたいものです。それではじめて面白い議論が始まるので期待したいところです。