安倍首相は「覚悟」を語れ --- 井本 省吾

2015年06月06日 10:22

今週の週刊文春と同新潮はそろって安保法制の論議を進め方について、安倍首相を批判している。文春は「上から目線の『安保法制』 安倍首相よ、国民をバカにするな」、新潮は「心に響かない安保法制『国会論議』の不毛地帯」。


保守系の両週刊誌は集団的自衛権の行使については基本的に賛成なのだが、「論議の進め方がきわめて不十分。国民に丁寧に説明していない。国民の心に響かない」という。

野党の重箱の隅をつついたような質問にも問題があるが、最大の原因は本質に迫らない安倍首相の答弁姿勢にあるとの批判だ。

それは、両誌ともに取り上げた佐瀬昌盛・防衛大学校名誉教授の言葉に集約される。いわく「安倍政権は胆力が足らない」(文春)、「覚悟の問題だ」(新潮)。

佐瀬氏は永年、集団的自衛権の行使容認を訴え続けてきた安全保障政策の権威だが、次のように安倍政権を批判している。

(集団的自衛権の行使によって自衛隊が米軍と共同で戦ったり、海外派遣されることが多くなり)自衛隊員のリスクが高まるのは当然だ。だが、安倍政権は国会論議でそこをはぐらかしている

佐瀬氏はドイツの例を引き合いに、次のようにいう。

1995年、それまで憲法解釈からNATO領域外に派遣できなかったドイツで、ボスニア紛争に派兵するかどうか、大激論になったことがあります。野党の女性議員が「もし兵士の棺が戻る事態になったらどうするか」と議会で質問したのですが、キンケル外相は「そういうケースはありうるでしょう。ただその時は、国防大臣とともに、棺の傍らに一晩立ち続け、殉死者を悼み続ける」と答えたのです。その結果、野党議員は黙り、野党から造反者が出て、派兵は可決された。今回、安倍首相や中谷大臣(元防衛相)は、「自衛隊のリスクは高まらない」などとのらりくらりとかわしています。キンケル外相のように、毅然と国民に自国の置かれた現実を語れる人材が安倍政権にいないのは残念です

安倍首相が慎重に安保論議を進めたいという気持ちはわかる。与党が絶対多数を占める今は、集団的自衛権の行使容認という国家の安全にとって重要なテーマを解決する絶好の機会である。

だが、「自衛隊員の死ぬリスクが高まる」「日本が戦争に巻き込まれる危険が高まる」といった議論に足をすくわれ、安保法案が通らない、などという事態になっては大変だ。

ここは慎重に論議を進め、無難に国会論議をかわし、法案成立にこぎつけたい。当たり障りのないよう、危ない論議は極力避けよう……。

その気持ちが心に響かない抽象的な答弁となり、結果として国民の「戦争に巻き込まれる危険が増大する」という不安を高め、マスコミのアンケート調査で「説明不十分」という回答が過半数を超えるという事態を招いている。

「自衛隊員の危険が高まる」「戦争に巻き込まれる危険が高まる」としても、安倍首相がそのリスクを引き受ける「覚悟」「胆力」を示せば、国民は納得し、むしろ支持率が高まるというのが佐瀬氏の見立てである。

私もそう思う。安倍首相は中国や北朝鮮の脅威が高まっている現実について、両国をいたずらに刺激したくないという配慮からか、間接的、抽象的にしか語らない。国民はこの点も説明不足と感じている。もっと踏み込んで中国の脅威、東シナ海、南シナ海の現実を語りべきだろう。

次に米国の軍事予算削減などから、日米同盟を基軸にしながらも日本は今までよりも防衛力を高め、防衛の前線に出ざるを得ないと語る。その結果、自衛隊員のリスクが高まることはありうるがそれを極力減らすために、そのためにこそ安保法制を改正するのだと正直に語る。最後にそれでも自衛隊員が殉死することになったら、一晩死者に寄り添う気持ちだと述べて、自衛隊員の危険を引き受ける「覚悟」を語る。

そうすることが、結果として国民の支持を高めることになると思う。


編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2015年6月6日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。


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