失業者を「占い師」に再教育? --- 長谷川 良

2015年06月15日 11:36

当方の友人の中にはウィーン市の職安で“人生アドバイサー”(Lebensberater)として勤務している者がいる。彼はプロテスタント系教会の元聖職者だった。毎日曜日は礼拝をしていた人間だ。しかし、ある日、その定職を失った。そこで家族を養うために最寄りの職安に通うことになった。職安では、仕事がないうえ、人生の目的を失った多くの失業者と出会った。彼らは教会の礼拝で会う人々とは異なっていた。人生に疲れた人、失業期間が長くなって次第に無気力となった中年男性たちが屯していた。友人は職安で別の人生に出会った。

友人は彼らを鼓舞し、生きる力を与えたいと思った。職安に顔を見せ仕事を探す一方、失業者に声をかけて励ましていた、その友人の姿は職安関係者の目に留まった。職安上司が友人に、「君、職安で失業者に人生の意義や目的を教える講習を担当してくれないか」と尋ねてきたのだ。もちろん、友人は喜んでその仕事を引き受けた。そして既に2年余りが経過したが、人生アドバイサーとしての友人の評判はいいという。

友人の転職がどのように伝わったのか、単なる偶然かは知らないが、オーストリア日刊紙プレッセ(13日付)を読んでいると、オランダの職業斡旋所でも失業者対策の一環として“電話人生アドバイサー”の育成に乗り出すというのだ。要するに、オランダでもオーストリアの友人のような人材を育成していこうというのだ。

失業者を電話人生アドバイサーにどのように育成するのだろうか、と考えたが、記事の中には詳細な情報は記述されていなかった。ひょっとしたら、アイデアだけで具体的な教育カリキュラムはこれからかもしれない。

失業者は字のごとく仕事場を失った人々だ。解雇された人、上司の言われた通りに仕事するのが嫌になった人、上級公務員に飽きて起業したが失敗した人、定年退職まで同じ職業に従事することが急にやり切れなくなった人、さまざまな理由が考えられるが、共通点は、朝起きて顔を洗い、食事した後、新聞をゆっくりと読む時間があるが、直ぐに取り組まなければならない仕事はないうえ、会社に行くために電車に乗る必要もなくなった人々だろう。

欧州諸国を見渡すと、スペインやポルトガルの南欧では青年たちの失業率(約50%)が非常に高く、大学卒のアカデミカーの失業者が珍しくはないという。アルプスの小国オーストリアでも大卒失業者が増えてきた。逆にいえば、失業者の知的レベルは以前と比べ高まってきているわけだ。人生アドバイサーへの資格の条件は整っているのだ。

次に、人生アドバイサーについてだ。友人の成功談を参考にしながら、人生アドバイサーの資格、気質などを考えてみた。先ず、人が好きでなければならない。友人は話すことが大好きだ。その上、話上手でもなければならない。もちろん、大卒程度の基本的教養は不可欠だ。もう一つ付け加えるとすれば、失業者が何を求めているか、何が欠け、何を教えなければならないか、などを直感的に把握できる人間洞察力が重要だ。

元聖職者の友人の場合、人生アドバイサーの下地があったが、普通の失業者がある日突然、人生アドバイサーに転身するということは容易ではないだろう。オランダの職安が失業者を電話人生相談者に再教育するというニュースが流れた時、その真剣さを疑う声があったという。しかし、友人のように、その道を開拓した元失業者がいるのだ。やってみる価値のあるプロジェクトだ。

ちなみに、オランダからの報道によれば、人生アドバイサーは水晶占い、タロット占いなど占いの世界についても学ぶという。人生に悩む人々に適切なアドバイスを与えるためには、時にカードを取り出して、悩む人の為に最善の道を占うことも必要というわけだ。リベラルな国柄らしいアイデアだ。ウィーンとはちょっと違った人生アドバイサーが失業者の中から生まれてくるかもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年6月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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