「政権交代可能な野党」なるものの存在可能性について --- 宇佐美 典也

維新の党の分裂が確定的になり、一方で民主党内でも解党的出直しを要求する動きが出て、さらに小沢一郎氏なども野党再編を公然と口にするようになってきている。

キーワードとなっているのは維新の党の幹事長の柿沢未途氏などが繰り返し述べている「大同団結」「(憲法違反の)安保反対」「政権交代可能な野党」だ。つなげてしまうと「大同団結して政府の安保法案に反対して政権交代可能な野党を作ろう」ということになるのだが、ことはそう簡単ではないように思える。

最も大事なのは「政権交代可能な野党」なるものはいったい何なのか?、という論点である。一応自民党の看板は「親米保守」ということになっているので、その比較で【外交方針×内省的価値観】という枠組みでこの点につき考えてみたい。

まず外交方針についてだが日本で政権を担う以上「反米」という選択肢は絶対にとれないだろう。そもそも4万人も米軍が展開しており、空母・航空部隊・海兵隊の拠点があり、日米安保条約に安保を依存しているこの国で「反米」という主張が罷り通ることが不思議でならないのだが、それはさておき外交方針の機軸を「親米」に置くとすると「安保法案反対」という主張が貫き通すことは極めて難しくなる。

野党もバカではないのでこの点配慮して各政党は便宜上「憲法違反だから安保法案に反対」ということを言っているのだが、仮にこの方針で結集して現在の安保法案を廃案に追い込み政権交代に成功したとしても、現在の集団的自衛権の議論は別に現在の自公政権が進んで検討したものではなくむしろアメリカから「日本はもっと南シナ海と中東の安全保障に責任を持つべき」と求められて受動的に検討しているものなので、その交代後の政権が日米安保条約の双務性の観点からアメリカに集団的自衛権を求められることは想像に難くない。そうすると新政府は「憲法を改正して、集団的自衛権容認を明記する」という選択肢を取らざるを得なくなるわけだが、こんだけ「戦争法案」というレッテルを張って批判した後にその当事者がそれよりもさらに踏み込んだ安保法案を提示するとしたら、国民はそうそう簡単には受け入れないだろう。
維新の党

そんなわけで「安保法案反対のための大同団結」にかじを切った時点で「政権交代可能な野党」というものの存在はあやしくなるのだが、次は内政面に議論を移そう。

自民党は一応「保守」とされているが、保守の定義はwikipediaによると「古くからの習慣・制度・考え方などを尊重し、急激な改革に反対すること。対義語は革新若しくは進歩主義。」ということになっている。つまり政権交代可能な野党が存在するとしたらそれはその逆の「親米革新」ということになる。では今日本においてもっとも急激な改革が必要な分野は何かというと「財政健全化、雇用流動化及び社会保障制度の改革」ということになる。少なくとも国際社会はそれを求めている。

以下はIMFの報告書に記載された日本が必要とする構造改革の内容だ。

①移民制限を緩和し外国人労働者をより積極的に活用すること
②高齢者が働き続けられるようにインセンティブを与えることで、労働力不足に対応すること
③雇用規制を緩和し労働市場の二重構造を是正し水平的移動を促すこと
④株式持合いを解消し、企業部門の再編を促すこと
⑤存続不可能な中小企業の退出の促進すこと
⑥財政再建のために社会保障費を抑制し消費増税を進めること

こうした改革を「政権交代可能な野党」なるものが存在するとしたら進めなければいけないのだが、残念ながら民主党は(自民党よりもはるかに強行に)こうした改革に抵抗する勢力である。民主党はなんの戦略も持たない「万年野党」という謎のポジションだ。つまり自民党と民主党は相互依存関係にある。一方の維新の党は「革新」に近いスタンスをもっているので、野党再編が実を結ぶとしたら維新の党を中心に民主党が分派して革新派が合流するというスタイルなのではないかと推測する。そう考えると「憲法改正を伴う安保法案の改正」を軸に野党が結集したら「親米革新」という新しい旗が生まれるのかもしれない。。。

などと暇つぶしに考えてみたが現実の選挙を考えると労働組合なしでは野党は成り立たないし、現状野党は「安保法案反対」という軸で呉越同舟している状態なので、こういう方向に物事が進む可能性は低いんだろう。

なお野党再編の実務を主導しているのは江田憲司氏を筆頭に2000年ごろの省庁再編を実現した官僚OB議員たちで彼らの発信する情報を見ても、なんというか20世紀のドラマを見せられている感は否めないので、「昔話はいいので21世紀の議論をしてくれないか」と首をかしげている。

あと彼らがよく口にする「大同団結運動」は失敗した運動なのでそれをキーワードに再編をするのはいかがなものかと思う。大同で団結しても結局は小異で切り崩される。とにかく個人的には「親米革新」という「政権交代可能な野党」が誕生することを願っている。努力、未来、a beautiful star。

ではでは今回はこの辺で。


編集部より:このブログは「宇佐美典也のブログ」2015年9月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は宇佐美典也のブログをご覧ください。