北の海外派遣労働者の職場は「3D」 --- 長谷川 良

当方はこのコラム欄で昨年、「北朝鮮の労働者海外派遣ビジネス」に関する報告書の概要を報告した。同報告書は2012年12月発行の60頁余りの資料だったが、先日、「北朝鮮の人権のためのデータベース・センター」(NKDB)が2015年5月に発行した「北朝鮮海外労働者」に関する200頁余りの資料を入手した。そこで、前回のコラムに追加しながら、北の海外労働者の状況を報告する(「金正恩氏は現代の“奴隷市場”支配人」2014年12月9日参考)。

北朝鮮の金正恩第1書記は父親の故金正日総書記時代に倣い、外貨獲得の手段として積極的に海外に労働者を送っている。北の海外労働者派遣の簡単な歴史を紹介する。
北が外貨獲得のため自国の労働者を国外に初めて派遣したのは1940年代だ。派遣先はロシアだ。北労働者は主に森林開発に従事した。それから1970年代に入ると、アフリカ諸国に派遣し、90年代には欧州と中東諸国に、そして2000年代に入り、中国、モンゴル、東南アジア諸国へと派遣先が拡大された。北の海外労働者の派遣先は最も多い時は45カ国にも及んだが、2013年段階で総数約5万人から6万人が16カ国に派遣されている。

最新統計による国別派遣数では、ロシア約2万人、中国1万9000人、クウェート4000人から5000人、アラブ首長国連邦2000人、カタール1800人、モンゴル2000人、ポーランド400人から500人、マレーシア400人、オマーンとリビア各300人、ナイジェリア、アルジェリア、赤道ギニアが各200人、そしてエチオピア100人だ。

労働職種は鉄道・道路建設、レストラン、鉱山、森林業などが主だが、北の各省が外貨獲得のため、人材を独自に派遣する場合も増えている。例えば、厚生省が医者を海外に派遣し、軍・科学関係省はミャンマーに地下核関連施設建設のため核科学者を派遣し外貨を得ている、といった具合だ。

ロシアでは主に鉄道建設や森林労働者として駆り出され、中国ではレストランで働く北の女性労働者が多い。北京では韓国人が経営するレストランで北労働者が働いているのが目撃されている。北労働者は中国人が嫌う、厳しく(difficult)、危険(dangerous)で不潔(dirty)な職場(3D)で働く。北側当局は中国に送る労働者に対しては脱北を警戒し、その選別を厳しくしているという。

クウェートでは主に建築関連に従事する。賃金が低いのでアルコール類を不法密売する北労働者も出、問題となったことがある。アラブ首長国連邦では約2000人の北兵士が働いている。欧州で北労働者が働いている国はポーランドだけだ。同国では昨年末現在、400人から500人の北労働者が働いている。2004年まではチェコでも北労働者が目撃されたが、チェコ当局が労働ビザの発給を中止して以来、北労働者はいない。

北の海外労働者の平均手取りは月100ドル。派遣先やその職種によってはもっと悪い。給料の90%以上が北の労働斡旋側や中間業者の手に渡る。にもかかわらず、多くの北の国民はその僅かな外貨を得たいために海外労働を希望するという。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年9月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。