言葉で恥をかきたくない人のために

誤用されやすい言葉その他(順不同)
私は日本語辞書としては「精選版 日本国語大辞典」を使っています。これは古い用例が豊富であるのがいい。

口八丁手八丁
揶揄する響きがあるので、褒め言葉としては使わない方が無難。「巧言令色仁すくなし」に近い。

役不足
能力に比べて役が軽いという意味。だから自分には使えない。何かの役職に任じられた人が「甚だ役不足ではありますが」というのは謙遜にならない。他人に使えば褒め言葉になる。

弱冠
二十歳のこと。だから弱冠二十五歳とは言えない。男性に限る。

賞味
称賛しながら味わうという意味。だから客に対し「ご賞味ください」とは使えない。

上を下への大騒ぎ
「上や下への大騒ぎ」と誤用する人がある。

秀才
男性にしか使えない。女性は才媛

またぞろ
後に続くのは悪いことであって、いいことには使わない。「またぞろしくじった」など。

耳障り(みみざわり)
「耳に障る」つまり「聞いて不快な」という意味。「目障り」と同じ。だから「耳障りがいい」とは使えない。


自分の正当性を主張し加勢するよう勧誘する書簡のこと。目の前の部下を叱りつける意味ではない。だから連敗中のチームの監督が「選手に檄を飛ばした」は間違い。この場合は「焼きを入れる」或いは「喝を入れる」とすべきだ。
例文:関ヶ原の前家康は江戸城にあって諸将に檄文を発した。

鳥肌が立つ
ぞっとするほど怖い思いを表す。最近「鳥肌が立つほど感動した」と言う人があるが誤用。

心血を注ぐ
心血を注いだ傑作など。「心血を傾ける」と誤用する人がある。

的を射た又は正鵠を射た
「的を射た意見」など。「的を得た」と誤用する人がある。「当を得た」と混同している。

須らく(すべからく)
単に「~ねばならない」という意味。「~すべし」と締めなければならない。「凡そ、全て」という意味はない。
あやふやな言葉は使わないこと。言葉使いにおいて背伸びしないことだ。

珠玉
小さなものにしか使えない。だから「珠玉の大作」は間違い。

玄人裸足(くろうとはだし)
玄人も裸足で逃げ出すほど、勝れていること。素人(しろうと)裸足と誤用する人がある。

天地無用
これを間違えては運送業はできない。上下をひっくり返してはいけないという意味。この「無用」は「不要」ではなく禁止を意味する。

火を見るより明らか
悪いことに限る。

情けは人のためならず
「他人に親切にすれば回り回って自分にいいことがある」という意味。

小春日和
小春とは陰暦十月のこと。春ではない。めったにない暖かい日和のこと。五月晴も同様で、これは陰暦五月今の梅雨時だから「めったにない晴れの日」のこと。
ついでに。正月に新春とか初春というのは陰暦の感覚である。新暦では冬の最中である。

流れに棹さす
時流時勢に迎合すること。先日佐高信さんがテレビで逆の意味に誤用していた。

一姫二太郎
最初に女の子、次に男の子が生まれると育児が楽という意味。娘一人、息子二人という意味ではない。

親の顔が見たい
「お前のような躾がなっていない子を育てた親はどんな人なんだろう」という意味。これを真に受けて実際に親を連れてきた人がいるとか。

妙齢
妙齢の女性とは二十代前半まで。先日テレビで、どう見ても四十を越えたいいおばさんに妙齢と言っていた。お世辞のつもりだったかな?

芳紀
女性がもっとも美しい年齢。普通は二十歳前後まで。これも妙齢と同様最近は大分上がっているようだ。

初老
これも上二つ同様間違って用いられている。初老とは40歳のこと。但し男性に限る。

遺憾
単に残念という意味。謝罪の意味はないので政治家にだまされないように。先日北朝鮮と韓国の間でもこの言葉をめぐって両国の言い分が違っていた。
植木等の歌で女房に逃げられた男が「まことに遺憾に存じます」と言っているのは完全に正しい使い方。
日本ではメッタに使われないが中国語では「残念」という意味でごく普通に使われる。

血税
元々「兵役の義務」という意味。今はまったく別の意味で使われている。

つかぬことをうかがいます
「つかぬこと」とは「つまらないこと」ではない。「本題から離れますが」という意味。

気が置けない
気づまりでない、気遣いのいらないという意味。

侃侃諤諤と喧喧囂囂
読み方はそれぞれ「かんかんがくがく」と「けんけんごうごう」。これをごっちゃにする人が時々いる。

御用達
読みは、「ごようたし」

順風満帆
読み方は「じゅんぷうまんぱん」。これをTBSラジオ「アクセス」で田中康夫さんが「じゅんぷうまんぽ」と言っていた。

貪官汚吏
読み方は「たんかんおり」。私利を図り不正をはたらく役人のこと。海音寺潮五郎なら明治の元勲井上馨を代表として挙げるだろう。水戸黄門のドラマでよくでてくるが実際には江戸時代の役人は概ね清廉であった。中国で清官を見つけるのは暁天に星を見つけるより難しい。

人間至る処青山あり
読みは「じんかんいたるところせいざんあり」。この人間とは人ではなく世の中。

うれしさを隠しきれず
これは誤用ではないが、鼻につく新聞報道の決まり文句。感情は常に隠すべきものとの思い込みがある。隠さなければならないのは葬式で「よろこび」、結婚式で「悲しみ」の感情だけ。

米軍の誤爆によって民間人10名が死亡した
これもよくあるニュースの表現。この中の「民間人」が変だ。これでは「公務員はいくら殺しても構わない」と聞こえる。非戦闘員又は一般市民とすべきだ。

青木亮

英語中国語翻訳者