韓国労組の考えられない「賃金交渉」 --- 長谷川 良

アゴラ

韓国日刊紙中央日報の記事(17日付)を読んでビックリした。現代重工業労組が大株主を脅迫しているのだ。
現代重工業労組は、国際サッカー連盟(FIFA)会長に立候補した鄭夢準氏(峨山社会福祉財団理事長)のFIFA会長落選運動を行うため、FIFA本部のスイス・チューリヒを訪問し、そこで鄭理事長を落選させる集会を行うというのだ。労組の狙いは「今年の賃金交渉を有利に進めるため」という。

現代重労組によると、スイスに落選運動団を派遣し、スイス労働団体とともにFIFA会長候補登録締め切り5日前の21日、FIFA本部前で記者会見を開き、鄭理事長の候補検証を行い、街頭デモなども計画している。

労組は、「鄭理事長がFIFA候補として遜色ないというのなら、現代重工業グループの産業災害問題、会社の賃金凍結、社内下請け労働者生存権などの問題に自ら率先して解決しなければならない」と主張する一方、「労組は会社の交渉態度の変化によって落選運動を撤回する用意がある」という。要するに、賃金交渉がうまくいけば鄭夢準氏の落選運動はしないから、賃金を早く上げろ、といっているわけだ。

韓国の刑法を知らないが、労組の言動は明らかに脅迫行為に当たる。「賃金交渉を有利に進めるため、会社の大株主を人質にとり脅迫しても構わない」といった労組の姿勢には違和感を感じる。目的の為なら手段を択ばないといったやり方で、品格が全く感じられない。
現代重工業側が、「会社内部の問題を海外に行って闘争するのは不適切だ」と答えたというが、労組の闘争のやり方は完全に常軌を逸している。

ところで、当方はFIFA次期会長には鄭夢準氏は適任ではないと確信している。労組は賃金交渉で妥協が成立すれば同氏の落選運動をしないというが、当方は同氏の落選を期待している。同氏ではゼップ・ブラッター現会長の腐敗・汚職路線を抜本的には改革できないと信じているからだ。
鄭夢準氏は企業家として立派かもしれないが、スポーツ界のトップにはやはり清潔な人物がいい。見果てぬ夢と笑われるかもしれないが、汚職や腐敗とは全く関係の無いキャリアを持つ人物が好ましい。FIFA周辺には巨額の資金が動く。誘惑は少なくない。特に、FIFAが主催する世界選手権(W杯)の開催誘致問題は腐敗で汚れきっている。

話を元に戻す。それにしても、韓国一流企業の労組の賃金闘争のやり方は、単なる一企業の問題では済ませられない。労組がFIFAの本部前でデモ集会でも開くならば、世界の笑いものになるだろう。一企業のイメージ問題ではない。韓国のイメージダウンに通じる。現代重工業労組は自身の賃金がアップすれば、国の威信が落ちてもいいと考えているのだろうか。国のイメージダウンは遅かれ早かれ企業にも跳ね返ってくることだ。もちろん、労組も無傷では済まされないだろう。

ちょっと待て。韓国では、自分の要求や不満を自力で克服したり、解決しようとはせず、安易に外(海外)でその不満を爆発させるケースが多い。日本の「過去問題」でも海外に出かけて日本の悪口を告げ、不満を解消しようとする。建前は、「日本の不正を国際社会に訴えるため」というが、実際は問題を自力解決できる能力が不足しているだけではないか。賃金交渉という純粋に企業内問題を海外で訴えるぞ、と力んでいる現代重工業の労組の姿勢もそれに酷似した構造だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年9月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。