経済は企業家に任せよ

2015年09月20日 14:45

NHKのテレビドラマ「鬼と呼ばれた男~松永安左ェ門」を見た。東京電力の基礎を築き、戦後日本の電力再編に大きな足跡を残した「電力王」の生涯だ。自らの考えの実現に向けて全力投球を続け、「電力の鬼」と呼ばれた。

見ていて、つくづく経済は起業家、あるいは起こした事業を継続、拡大させる企業家に任せることだ、と感じた。

官僚は計画経済で世の中を動かせると思って、多くが失敗する。戦前、戦中の国家総動員法体制による統制経済はその最たるものだ。

国家総動員法のもと、特殊法人の日本発送電会社が設立され、9つの会社が配電事業を行うことになった。松永はこれに徹底的に反対して引退を余儀なくされた。社会的に抹殺されたのだ。

営業の自由、人間の自由を奪う統制経済に反対する松永は、国家管理にいそしむ役人が大嫌い。講演会の席上で軍閥に追随する官僚達を「人間のクズ」と発言した。

テレビドラマでは、激高した役人が松永の宿を拳銃で襲う光景が描かれる。松永はその役人に土下座して謝罪する。本気で謝罪しているのではない。自らの考えを貫き、生き抜くためには何でもするのだ。面子やプライドなどはどうでもいい。これこそ商人の生き方、「もうかってなんぼ、生き抜いてなんぼ」の精神である。

その企業家魂が事業を持続、発展させ、雇用をふやし、人々の生活を豊かに、安定させる。軍部を含む官僚たちは自らの出世や権力欲の拡大と保身に汲々とし、国家経済を危うくする。

いや、国家経済を真剣に考えている役人も少なくない。彼らは良かれと思って計画経済を推進する。だが、いかんせん秀才官僚は自らの才能を信じて、その限界がわからない。コスト計算ができず、変転著しい市場の行方、事業の成否が読めない。環境変化に柔軟に対応できず、損失を巨額にしてしまう。

自分の金を使わず、税金を遣っているから、失敗した時の被害の大きさ、痛みがわからない。それが致命的なのだ。

一方、事業家は失敗すればすべて資材を差し押さえられ、それこそかまどの灰まで失ってしまう。それを骨身にしみて死っているから1円単位のコストまで厳しく計算し、人々の欲求、需要をきめ細かく読んでコトを進める。計画通り行かなければ、原因を突き止め、次の施策を実施、損失が大きくなりそうなら事業を中止する。

自由市場経済ではライバルがしのぎを削り、アイデアを競い、従業員の教育に力を入れる。だから破綻する企業が出ても、産業全体は発展する。

統制経済ではそれがない。民間企業同士の多彩で激烈な競争によって産業全体が発展することがないのだ。

戦後、政府から産業計画を任せれた松永は、現場視察に当り、自動車が入れないような場所にある粗末な小屋に泊まり、ドラム缶の風呂に入り、第一線で働く工事現場の人たちの苦労を自らの体で味わったという。一流の旅館に泊まって視察する高級官僚や政治家ではありえない、徹底した現場主義だった。

しかし、保身に動く民間企業は現状維持を重視し、役人や政治家に働きかける。政治家や役所はそれを自らの権益維持、天下りの役立てようと企てる。三位一体の癒着体制である。

戦後、日本発送電会社の民営化が課題になった時も、日本発送電の幹部は独占体制を守ろうとし、そこから優先的に電力供給を得ようとする鉄鋼メーカーなどが現状維持に動いた。

だが、松永は「それでは国民全体に安定的に電気が行き渡らず、停電のない豊かな社会は実現しない」と猛反対し、時の通産大臣の池田勇人やGHQを動かし、電力会社の事業再編、分割民営化(九電力体制)を実現した。

この困難に立ち向かい、やれることは何でもやり、白猫も黒猫もネズミをとるのは良い猫と、立っているものは親でも使うリアリズムこそが企業家精神である。

松永だけではない。松下電器産業の松下幸之助、ソニーの盛田昭夫、ホンダの本田宗一郎、京セラの稲盛和夫、ヤマト運輸の小倉昌男、今も現役であるセブンイレブンの鈴木敏文、ファーストリテイリングの柳井正、日本電産の永守重信など、すべて共通する。

企業家精神が薄れた企業では負の側面が広がる。松永は築いた東京電力は福島の原発事故にあえいでいる。経団連会長になった石坂泰三や土光敏夫が経営した東芝も、昨今の不適切会計で会社の屋台骨が揺れている。かつての栄光が廃れた松下、ソニー、シャープにも同じことが言える。

しばしば企業経営は創業一代。創業者がいなくなると、かつての栄光が翳りだすといわれるが、相当程度、正しいといわざるをえない。

だが、栄枯盛衰はあっても、その後から新たに次の企業家が育つのならば、産業界全体としての活力は保たれる。老木の下から若木が育って森全体の活力が保たれるように。市場が自由競争を維持していれば、である。

政府がやってはならないのは老木が倒れないようにと、様々な保護政策をとり、既存の規制を温存することだ。それは森全体が枯死する危険を助長する。

松永のような「鬼」が跋扈する世界こそ望ましい。安倍政権が心がけるべきは企業家の活躍する世界の構築である。間違っても公共投資を拡大したり、地方創生と称して、税金をばら撒いてはならない。

地方創生がしたければ、余計な規制を撤廃し、若木が自力で育つ環境を整えることだ。要するに、何もせず、規制を撤廃することが肝心なのである。

電波オークションを実施して、既存の放送局体制を打破する。タクシー会社の参入規制をなくして、米ウーバーのような安くて、便利な配車サービスを普及させる……。アベノミクスの第3弾=成長戦略では、本当はやるべきことはたくさんあるのだ。

安倍首相は岩盤規制に聖域を設けず、ドリルを当てると言っているが、とてもとても。まだドリルの歯が内部に届いていない例が多い。

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