安倍首相はなぜきらわれるのか


最大の山場だった安保法制が終わって、安倍首相は2期目に何をしたいのだろうか。彼が発表した「新3本の矢」は、近来まれに見る無内容な経済政策だった。アベノミクスの最大の目玉だったリフレの看板はあっさりおろしてしまったので、どうやって「名目GDP600兆円」を実現するのか、さっぱりわからない。

それより永田町は内閣改造の噂で持ち切りで、稲田朋美氏が入閣するという話が出ている。当選3回で政調会長というのも異例だったが、2度目の入閣となると、安倍首相が彼女を後継者と考えているという観測もあながち否定できない。その最大の理由は「右派色」だろう。彼女は慰安婦問題などで安倍氏の本音を代弁し、靖国神社にも参拝した。

私は、安倍氏の長州ナショナリズムが必ずしも悪いとは思わない。それが尊王攘夷というカルトによって明治維新を実現し、明治政府をまとめたのも(よくも悪くも)長州閥だった。軍部がバラバラになって暴走するのは、昭和に入って「反長州閥」になってからだ。

これは本来の意味でのナショナリズムではなく、私的な「家」の拡大版だから、非人格的ルールではなく属人的な好き嫌いで動く。それが自民党の基盤である個人後援会という「家」を支え、その集合体としての派閥という「家」が官僚機構に寄生して利権と金の分配をやってきた。

これは近代国家とはいえないので、知識人やマスコミにはきらわれる。その代表が朝日新聞である。彼らは安倍氏の「色」がきらいなのだと思うが、実際には大した違いはない。右派は国家資本主義、左派は社会民主主義だが、両方とも「大きな政府」を志向する点では同じだ。

むしろ問題は、日本に「小さな政府」を志向する政党がないことだ。小泉政権の幹事長だったころの安倍氏はそういう主張をしたこともあるが、首相になると自民党の伝統のバラマキ路線に戻ってしまった。

おそらく今後は、稲田氏のような「色」を強めることで自民党のアイデンティティを保つのだと思うが、そういう古いコア支持層は国民の2割もいない。圧倒的な「第一党」は無党派層なのだが、国民の過半数を占める彼らを代表する政党が存在しない。これが日本の最大の不幸である。