日本の不動産市場は健全か?

東京の大手銀行不動産部。1時間半に渡って交わした話は想像を上回る市場のゆがみでありました。

東京に物件がない、これはあちらこちらから聞こえていた声であります。つまり、欲しくても不動産物件が出回ってこないのであります。多くの売り出し物件は銀行や地元の不動産業者が押え、それを自分のクライアントに売却する為、公開される不動産売り情報に上がってこないのであります。不動産屋は両手で手数料が取れますので「うひゃうひゃ」状態ともいえましょう。

誰が買っているのか、これは物件のタイプにより多少違うのですが、特徴的なのは「数億円程度の小金持ち」が血眼になって物件を探しているということでしょうか?

数億円を小金持ちと括ってしまってはお叱りを受けるかもしれませんが、不動産市場の場合、戸建てやマンションが戸当たり3000万円から1億円程度に対してビルなどの収益物件となると青天井の市場であります。その中で数億円はいかにも中途半端になってしまうのです。仮に都心で新築物件となれば100坪で3億円の土地に上物を乗せて総額10億円也というのが程よいサイズなのかもしれません。

ではだれがそんな資金を持っているのか、といえば私の思うところ、バブル時代に稼いだ中小企業のオーナーさんがそろそろいい歳になり、相続税対策で買っている、こんなピクチャーが見えてきます。

11月3日の記事で話題になった国税庁の高層マンションへの課税についての監視強化。高層マンションの場合、狭い土地に高い容積の建物を作り出しますのでその評価額は建物の価値に対して土地の価値が極端に小さい比率になります。その上、同じ間取りでも購入階が上層部に行けば行くほど眺望が良く、価格が上がる仕組みですから一番上の部屋は極端な話、評価上で見れば土地の比率が一番小さくなる仕組みであります。これは相続税対策としてパーフェクトな結果となり、「そういう目的の方」が喜んで大枚をはたくわけであります。

一昨日にこの国税のニュースが出たため、昨日の日経平均は活況だったにもかかわらず、不動産や建設株が下げた要因はこの節税スキームに陰りが出るかもしれないという懸念でした。

いわゆる収益物件への投資の場合、今や4-5%のリターンがあれば飛びつく、とも言われています。この表面利回りの4-5%のリターンはグロスですから実際には所有にかかるコストを差し引かなねばならず、実際の利回りは更に下がるのです。

これは例えば昨日上場したゆうちょ銀行の公開価格ベースで3.8%の配当利回りとほぼ同程度となってしまいます。収益だけを捉えれば無理してがさのある不動産を持つよりも口座一つで勝負できる株式の配当金の方がはるかに優れているのですが、前述のように相続税の圧縮という究極の目的があるために実際には不動産の方がはるかに魅力的になるのです。

つまり、不動産市場は相続税対策という不健全な要素に依存しているともいえ、今回の様に国税庁が監視強化と表明すればガタガタと音を立てて崩れてしまうのであります。これが私の懸念する不動産市場の現状であります。

ところで場所は変わりバンクーバー。世界の主要都市圏の中で今年、格段の値上がり率を誇るこの不動産市場は中国からの投資が下支えしていることもありますが、先行きも値下がりしそうにもないと見込まれています。英語で
park your cash という表現があるのですが、まさに一時避難的に安全度の高いと思われる都市の不動産に資金を置いておくという発想にあります。

不動産が上昇するには理由があります。政治経済的安定感、人口の増加、投資環境、利便性、水や山などの眺望や職住環境、税制など地政学的見地を含めた長期的ビジョンが立てられるかどうか、であります。

日本の場合、今回の相続税対策による一種の特需や円安で外国人の国際価格比較からの投資需要といった「特殊要因」で値上がりしているため、永続性の点で疑問が残ります。また以前から申し上げているように日本は歴史的に「お上が租税を取っていき、三代で無くなるようになる伝統」があります。バンクーバーの場合、相続税はありません。この違いは不動産という長期的投資に於いて数十年というスパンで見れば大きな違いが出てくるのであります。

今回、日本である物件取得の為に本格交渉に入りました。こんな懸念が残る市場ですが、私は誰も手を出したがらないある条件の物件に絞って探しておりました。ヒントはバランスシートをなるべく膨らませない投資、としておきます。

日本の不動産投資はある意味、思った以上に大きなリスクとの背中合わせですので目先の動きに惑わされず、20年後を見据えた投資スタンスを持つことが必要ではないでしょうか?

では今日はこのあたりで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 11月5日付より