地方創生を止めて地方消滅でいこう! --- 水谷 翔太

2015年11月07日 07:00

消滅を受け入れて生きよう


国が今年度1兆円以上計上した、地方創生関連予算を巡って自治体間、企業団体間で争いが始まっている。筆者のもとにも「どうすれば地方創生できるか?」と「田舎」とみなされることが多い地域の関係者から相談がしばしば持ち込まれる。私は高校卒業までを岡山の田舎で過ごし、大学卒業後、NHK記者になって中国・東北地方の山間の地域を取材した後に現在の職(大阪市天王寺区長)に就いた。田舎の関係者からすれば、自分達の切実な思いもわかっていて、かつ都会から外貨を引っ張ることもいろいろ考えてくれそうな人に思われるのかもしれない。しかし切実な思いがわかるからこそ、私は「地方創生」ではなく「地方消滅」への準備を勧めることの方が多い。

※安倍政権が地方創生を進める一方、困難と見る向きもある(mateuspabst、作成・アゴラ編集部)
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昨年5月、元総務相の増田寛也 東大客員教授らが2040年には全国896の市区町村の半分が人口減により消滅の危機を迎えるとの予測をまとめた。日本には1800ほどの市区町村があるので、単純に計算して2つに1つが消滅の危機を迎えるということになる。その現実を踏まえて地方創生に取り組んでいる関係者はあまり多くないように見受けられる。潜在的な成長力に欠ける企業にいくら投資しても死に金になってしまうように、自治体も同じ。消滅手前の自治体が観光や定住促進をいくら頑張っても、単なる税金の無駄遣いになってしまう恐れが大きい。国が躍起になってブームを演出している現状では、国・自治体ともに無駄遣いが起きやすくなるので、よくよく注意した方が良い。

レッドオーシャンとしての観光
ごく一部のマニアが来るだけの定住促進


そもそも自治体自身に成長力があってなおも、地方創生という分野はビジネスでいえば「レッドオーシャン」(競争が激しい市場)であるということを認識した方が良い。特に観光分野は厳しい。綺麗な水と美しい山があれば都会の人は喜んで遊びに来ると田舎の人は思うかもしれないが、そもそも日本の国土の7割は中産間地域。自然なぞレアでもなんでもない。むしろ都会の方がレア度が高いからこそ、観光客も人口も多く推移してきている。自然があるだけではコモディティ(差別化要素の少ない商品)であることを理解せず、PRすればなんとかなると思い代理店に多額の金を支払っても無駄。

2012年の自治体予算に占める観光事業の比率は大きいところから順に沖縄県、鳥取県、高知県、香川県の順番だったが、これらの自治体を宿泊客数のランキングで見ると沖縄県7位、鳥取県41位、高知県42位、香川県38位。沖縄県を含め東京、大阪、北海道はまさに物見遊山の代名詞。長年を経て醸成されたブランドがある上位常連組みであり、ちょっとやそっと金をかけたからといって割って入れるものではない。やるんだったら「こんなの今までの田舎になかった」というくらいのことをしなくてはだめだ。商店街のシャッターに絵を描いてみたり、空き家をオシャレにリノベーションしたり、ありきたりなアイデアしか聞こえてこない。

それから観光だけでなく「定住促進」もお勧めできない。メディアは盛んに地方を目指す若者が増えていると報じるが、意識が高いユニークな層の動きを一般化させて見せるのはメディアの常套手段だ。話題になった2013年の毎日新聞と明治大学の共同調査。2009年から13年にかけて3000人が8000人、3倍近くになったということで話題を呼んだが対象の自治体が1000程度なので1自治体平均で8人程度、人口が増えただけ。これを焼け石に水と呼ばずして何と呼ぼうか。去年の内閣府の統計で20-30代で地方移住肯定派の割合は5割を超えたが、真に受けて定住促進頑張り過ぎない方が良い。移住の条件として上位にあがったのは教育、医療、福祉の充実、買い物拠点やイベントの充実・・・全て整備しきる行財政、民間投資があるならば頑張ればいい。

ゆるキャラ予算ではなく基金積み立てを


単なる移住ではなく、団塊世代の退職後移住に躍起になる自治体もあるがただちに止めるべきだろう。日本に約800万人といわれる団塊世代が存在する。その多くは地方で暮らしていて、今から10年後、彼ら彼女らは75歳以上となり後期高齢者を迎える。厚労省の推計で医療給付日は1.5倍の54兆円に、介護給付日は2.4倍の19.8兆円に到達する。いわゆる2025年問題だ。この時、国のみならず地方自治体も医療・福祉面を中心に大きな負担増を求められる。子どもの落書きみたいなゆるキャラをつくって究極のレッドオーシャンに無謀に突っ込んだり、「おしい広島県」の100番煎じみたいなつまらないPVをつくったりして観光に死に金を費やすよりも、莫大な予算をかけて1年に数年来るか来ないかの定住促進を頑張るよりも、今既に存在している住民に目を向けてあげるべきだ。具体的には高齢者数の動向と生活状況の変動を見据え、医療・福祉面で必要となる予算をこの10年間で基金積み立てしておいた方がいい。地方創生というブームに踊らされるのではなく、成長力のない自治体が今なすべきは「地方消滅」のための準備だ。

水谷翔太
大阪市 天王寺区長
ブログ・http://www.mizutani-shota.jp

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