コンテンツ特区:CiPをどうする? --- 中村伊知哉

2015年11月23日 14:40

東京港区竹芝にデジタル・コンテンツの集積特区を作る「CiP」。推進母体のCiP協議会事務局から理事長(ぼく)に対し質問が3つ来ました。
CIP
1 東京・日本の未来をどうみる?
2 その将来性を伸ばすにはどうする?
3 CiPで実現したいことは何か?

回答を書いたんですが、サイトに載せるには長すぎると却下されました。ごめんなさい。仕方ないので、ここに全文コピーしておきます。

1 東京・日本の未来
Adobe社の主要国調査によれば、世界一クリエイティブな国は日本と評価されている。当然だ。そして世界一クリエイティブな都市は東京だという。みんなよく見ている。私は東京に住み、第一の故郷は京都、第二はパリ、第三はボストン。いずれも最高級の都市だが、東京は図抜けている。

都市の時代である。リチャード・フロリダ「クリエイティブ都市論」によれば、経済生産のメガ地域の首位は広域東京圏(2.5兆ドル)。これはドイツ1国の規模に匹敵するという。イノベーションを特許数に基いて測ると、最も突出するのがNY、SFと並んで、東京。続いてボストン、パリ、大阪/京都だという。東京にはハイテク企業が集結している。

そして東京は、ポップカルチャーの本場として若者の憧れとなっている。マンガ、アニメ、ゲーム、J-POP、ファッション、和食、デザイン、建築、さまざまな文化がソフトパワーとなって海外の耳目を集めている。

世界の駅の乗降客数トップ3は新宿、渋谷、池袋。電車ネットワークが稠密だ。遅れるとあやまってくれるし。光ファイバーの普及とケータイの無線も最高位。インフラは盤石だ。

ミシュラン星付きレストランは、パリ64軒に比べ東京は266軒と断トツ。私の事務所から100m圏内に17か国のレストランがある。どこもうまい。そんな場所は他にない。

コンビニでコピーができて公共料金が支払えて小包を送って洗濯物を出してトイレが借りられる。公衆トイレにウォシュレットがついている。どの通りにもある自販機が壊れておらず、ビールも日本酒も、カップ麺もおでんも、バナナも、パンツも買える。
 酔っぱらって道端で寝ていても身ぐるみはがされず、タクシーにケータイを忘れてもドライバーが届けてくれる。

いい町じゃないか!

課題は3つある。

まず、世界に先駆けて高齢化する社会の幸せをプロデュースできるか。お年寄りにとっても安全で便利でエキサイティングな町でいられるか。これがクリアできれば、東京は21世紀中、地球をリードできる。

2つ目は、国際化・多様化。東京のスゴさは、日本人コミュニティがむさぼってきた。諸国の多様なかたがたをおもてなしし、共存し、価値を共有することができるか。
3つ目は、夏が暑すぎること。8月、私はすさまじい東京を逃げ出して、パリでこれを書いている。私の事務所の中で熱中症が発生したが、これは事務所のせいではなく、東京のせいだ。2020五輪のマラソンは、あの炎天下を走らせるつもりか?

戦後70年。日本は軍事国家を捨て、経済に生きようとした。だが、GNP主義も行き詰まった。次は何だろう。GNPP(Gross National Pop Power)やGNSP(Gross National Soft Power)、つまり文化国家を目指すのだろうか。

2020年には、その答えが見えているだろう。

2 将来性を伸ばすには

3つある。

1) 強みを伸ばす。

最大の強みは、テクノロジーとポップカルチャーとが併存していること。高い技術力をもつ企業群と、文化を生み出すクリエイターやユーザが集結している。これは比類がない。その総合力を磨いて、世界から人とカネを呼びこむ。

そのためには、緩和と集中が必要だ。法規制や業界ルール等の縛りをできるだけ緩くすること。そして、持てる人材と資金とを集中投下すること。東京一極集中の是正が今も叫ばれるが、それは東京を弱めることではない。

逆に東京への資源投下を強化して、NY、ロンドン、パリ、上海、ソウルに対抗しなければ、日本が沈下する。地方は東京や海外との連携を強化してこそ浮上するのであって、東京を強めて自分も強くなれ。

CiPはそのためにある。テクノロジーとカルチャーの集中拠点を作り、国内の主要都市とも連結して、新時代の増殖炉となる。

カギを握るのは大学だ。シリコンバレーや東海岸でアメリカの大学がIT分野で果たしたようなプラットフォーム機能を日本の大学が果たせるかどうか。われわれの宿題である。

2) 自由を維持する。
 日本ポップが海外で人気を博す理由の一つに、表現の自由さがある。宗教や階級の規範が緩く、エロ・暴力をはじめ海外では許されない表現がまかり通る。これは社会問題のもとであると同時に、コンテンツの国際競争力の種でもある。

制服やロリータファッションは、欧州やアジアの若い女性が自由の象徴という評価を与えている。自国では憚られる服装が日本では許される。そこにはわれわれが認識していない、自由という磁場が存在する。

江戸は居酒屋の密集地であった。江戸市民と東京都民の飲酒量を比べると、アルコール換算では変わらないという。早朝から酔っ払っていたそうだ。200年前の大酒会では、菊屋のおすみが2升5合を飲み干したという記録がある。自由だった!

それがどうだ。アニメ表現は規制され、レバ刺しはご法度、学校はケータイ禁止で、官邸に1個落ちただけでドローンは法律ができて、TPPで二次創作がしづらくなるかもしれない。

それがスタンダード?だとすると、非スタンダードで競争力を維持するのが戦術だ。竹芝は、国家戦略特区なのである。

3) 海。

東京は、海を持つ。米英仏独伊加、他のG7は首都に海はない。防衛上、当然であろう。中露にもない。常任理事国の常識であろう。印西伯にもない。大国はみなそうだ。なのに東京は海を持つ。海を持って輝く首都はシンガポールと北欧などごくわずかだ。

日本は海洋国家だった。陸路より海路を活かすため、江戸を首都にした。ところがどうだろう。今、東京は海を活かしているだろうか。埋め立てて埋め立てて、亡き者にしてきたのではないか。川だってそうだ。蓋をして、首都高を通して、亡き者にしてきたのではないか。

使おうよ。他国にできないことなんだから。水運を活性化させる。水上に無数の船やドローンを飛ばして街を作る。水面を活かして巨大スクリーン空間にする。水辺でいつもいろんな民族の言葉で歓声が上がっている。

他にも活かせていない資源があるはずだ。掘り起こして、プロデュースしよう。

3 CiPで実現したいこと

世界のどこにもないクリエイティブ空間をつくる。東京にしかできない、新東京をつくる。
研究開発、人材育成、起業支援、マッチングのコンパクトな一気通貫クラスターをつくる。

とはいえ官製の無機質な場ではない。シリコンバレーのようなマネー空間でもない。もっとこう、血と肉と、音楽と、もうもうとしたテンションが凝縮したカルチェ。

メディアラボのような梁山泊、ワークショップコレクションのような創作活動の集積、500スタートアップスのような起業エコシステム、ニコニコ超会議やコミケのような異種格闘技リング、それらが一体となって、毎日、市が開かれいている、そんなところ。

そこは、ソウルのCKLみたいな研究教育拠点があって、フランクフルトのECBのようにカネを握っていて、カサブランカのマルシェのように混沌で、バルセロナのビーチのように水しぶきが上がって、ブエノスアイレス・カミニートのように音楽とダンスが常である。

ミラノ・モンテナポレオーネのようにシュッとした男女が闊歩して、シンガポールのように政府が本気で、パリ・ラビレットのように子どもたちが駆け回り、京都・先斗町のように絶品のメシと酒があって、そして、Big Hero 6 サンフランソーキョーのように西海岸と東京が混ざったようなクリエイティビティにあふれる区域。

そこは、国家戦略特区なのだ。往年のライブやCMが「ここだけ見られる」秘蔵アーカイブがある。不偏不党を逸脱した放送が行われる。外では使っちゃいけないIT機器を使ってグフグフと何かが仕掛けられる。

この界隈で開かれるマラソン大会は、選手ごとにドローンが飛び、応援するランナーの映像をずっとスマホで追いかけられる。特殊な電波を割り当てられて身体機能を強化した超人たちがスポーツ訓練にはげむ。

学校じゃ禁止されるデバイスを使ったウルトラ英才クラスが開かれる。給食当番や掃除当番は自律ロボットが担当する。免許がないけどエアカーに乗っていい。窓の外は屋外広告規制を無視した巨大スクリーン。海面を巨大なスクリーンにした映画祭が開かれる。等身大のガンダムが水上を飛んでいる。レバ刺しが喰える。

京都と沖縄とを結んで、映像を制作・編集・発信する。慶應義塾大学や東京大学と、政府系研究機関と、スタンフォード大学を結んで、共同研究機構を作る。オックスフォード大学やシンガポール国立大学にも入ってもらう。

小さい空間なんだけど、そんなもろもろが、コンパクトにギュっと詰まった、これまでにない面白いクリエイティブ・カルチェ。

きっとできる。そして、ここにしかできないと思う。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2015年11月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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