007の仇敵スペクターはISの“予見”だったのか

2015年11月26日 07:00

どうも新田です。「スペクター」と聞いてテロ組織を思い浮かべるのは007のファンであり、下らないダジャレを飛ばす外タレを思い浮かべる人はワイドショー好きであり、「スペクター参上!」と落書きを思い浮かべる方は十中八九、ヤンキーの多い地域の出です。

spector

▲「宿敵復活」で注目の「007スペクター」(公式サイトより)

ところで、あすから3日間、日本で最新作の先行上映が始まるわけですが、日本公開直前に勃発したパリの同時テロのことなどを考えると、凄惨な現実がフィクションを超えてしまった21世紀において、スパイの世界を題材にした作品づくりの難しさも考えて複雑な気持ちにもなります。もちろん、基本はエンターテイメントと割り切ればいいのですが、“自称007の研究者”としては過去作品や関連文献を振り返るに、長寿シリーズの秘密はエンタメの要素と、舞台設定にしている国際情勢の現実要素とを、製作者側が伝統的に絶妙にバランスを取っているからと思えてなりません。

“民営化”された諜報組織


ダニエル・クレイグやピアース・ブロスナンの主演作しか知らない若い世代のために説明しておくと、スペクターとは初代ボンド、ショーン・コネリーの主演作6作品のうち5作に登場。ちなみに日本ロケでは、紀尾井町にあるホテル・ニューオータニが日本支部という設定で使われました。何をやらかす組織かというと「対敵情報、テロ、復讐、強要のための特別機関」。英語を見れば頭文字を取ったことでわかりやすい(SPECTRE=SPecial Executive for Counter-intelligence, Terrorism, Revenge and Extortion)。

原爆を盗み、欧米の主要都市の爆破予告をチラつかせながら、巨額の金塊を払わせようとしたり(「サンダーボール作戦」)、催眠術で操った女性に生物兵器を使わせて農産物等を壊滅させてイギリスに致命的打撃を与えようとしたり(「女王陛下の007」)、それなりの巨悪として世界の秩序を乱そうとするわけなんですが、アルカイダやISのような現実のイスラム原理主義のテロ組織に比べると、かわいいものかもしれません。特に前者は国家に対するカツアゲ。スパイ合戦真っ只中の冷戦時代の創作上の設定とあって、当時のスペクターはある意味、国家の諜報機関の崩れの半グレ集団といいますか、 ある種の“民営化” された諜報機関が、国家を相手にスマートに虚々実々の駆け引きを繰り広げております。

政治的配慮の創作も先見性あり


実は初期の007の映画では冷戦時代でありながら、メインの敵キャラをソ連のスパイにはせず、スペクターにしたことが一つのポイントでした。名作「ロシアより愛を込めて」の凄腕殺し屋も、原作ではソ連の手先ですが、映画版ではスペクターの回し者になっています。そのような差し替えをした理由としては、ソ連が敵キャラだと政治色が露骨すぎるという配慮をしたとみられるわけですが、東西両陣営に等距離で独自の活動をするというスペクターの設定は、結果的に国家の枠にとらわれない“民間諜報テロ組織”という先見性のあるキャラクターとなりました。

ロシアより愛をこめて (デジタルリマスター・バージョン) [DVD]
ショーン・コネリー
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2007-08-25


サンダーボール作戦(デジタルリマスター・バージョン) [DVD]
ショーン・コネリー
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
2012-11-23


もっとも70年代に入り、ロジャー・ムーア主演作以降、著作権トラブルで「スペクター」はイオン・プロダクション製作の映画で使うことができず、半世紀も“お蔵入り”になってしまったのは残念なことでしたが。

現実が映画を凌駕してしまったが…


ただ、さしもの原作者フレミングも、民間のテロリストたちが「国家」を作って、英米やロシアと渡り合い、テロの恐怖と惨劇に西側諸国を陥れて翻弄する現実までは、想像できなかったことでしょう。ISのように、インターネットを駆使し、「個」を組織化して国家に対抗できる勢力が生まれるというのは、まさに21世紀型。しかも「サンダーボール」のスペクターと違い、最終目的は恐喝(カネ)ではなく、キリスト教圏の文明の殲滅。仮にISが原爆を盗み出すことに成功すれば、カツアゲなんてまどろっこしいことはせず、躊躇なく核のスイッチを押しかねません。

まあ、そういう世界のパワーゲームの構図がすっかり変わってしまった中で、「007」が21世紀版のスペクターをどう描こうとしているのか、興味は尽きませんし、たぶん宿敵として今後登場させるのなら製作者の試行錯誤は続くのでしょう。とりあえず、蘇ったブロフェルドは禿げてない模様ですが、猫好きとしてはペルシャ猫を抱いているお約束のシーンは見たいものです。
ではでは。

P.S 本日、初の拙著が店頭に並びます!「007」ネタも1つだけ書いてます。よろしくお願いしまーす!


新田 哲史
アゴラ編集長/ソーシャルアナリスト
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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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