「ニューエコノミー」を阻害する社会部記者たち

2015年11月27日 07:00

どうも新田です。きのうAirbnbが南青山の小洒落たギャラリーで大々的に記者会見を開きまして、自社の民泊サービスが日本に与える経済波及効果の調査結果なるものを発表したので行ってまいりました。まあ、旬なシェアエコノミーネタであり、政府が「民泊」をどこまで解禁するのかどうか、経済メディアなら垂涎の話題性満載ということで、国内外の主要メディアは恐らく全て参集。会見場は一躍ホットスポットになったわけであります。

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▲記者会見するAirbnb日本法人の田邊泰之社長

経済効果発表の記者会見の“裏テーマ”


経済効果の話は面白かったので、詳しくは後日書きたいと思います。まあ、会見のストレートニュース記事はトラベルビジョンさんが結構まとまっていますので興味ある人はご覧あれ。記者と広報コンサルのハイブリッド経験者としては、どのような情報をキーメッセージとして打ち出すのか、そしてそれをどういうストーリー座組みにするのかヲチしていたわけですが、経済効果の調査ネタは、ニュースの素材になりやすいマクロなお話なので、PR戦術としては王道。もう一つ目を引いたのは、会見の中盤で安全面を再三強調していた点ですね。

ここ数か月、安倍政権が民泊解禁に前向きな意向を示しておりますが、安倍さんが嫌いな朝日新聞などによる民泊の問題点を追求するネガ報道も散見されます。このリンク先の記事は典型で、わざわざ書き出しで「安倍政権が規制緩和に意欲を示す」を枕詞に、転落事故だの騒音だの、いろいろ指摘して、安保法の仇を民泊で取ろうという意気込みがにじみ出ております。記事にはAirbnbのコメントも載っており、同社はもちろん、会見を仕切った外資系PR会社プラップ・ジャパンは、会見の「裏テーマ」として、なんとか安全面を強調するのが狙いだったと推察します。

社会部の猛獣には確率論では伝わらない


田邊社長のプレゼンでは、数字を大きく見せたパワポを披露し=下記=、「15年夏に1700万人がAirbnbを利用した際に、緊急対応した件数は300件で、発生率は約0.002%であったことを強調」(トラベルビジョン)しておりました。

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要は確率論を打ち出し、先日の池田先生のUberを巡る記事にもあった通り、評価経済のメカニズム導入でシェアエコノミーの利便性&安全性を担保するという世界観なわけです。う~ん、でもどうかなあ。きのうは社会部系の記者が少なかったので、質疑応答は炎上しませんでしたがね。残念ながらこういう確率論的な見せ方というのは、震災後の放射能を巡る感情的な一部報道にも見られるように、正直、体力が取り柄だけの頭の悪い社会部記者たちには理解できないですよ。“猛獣”には人間の言葉が通用しないのでご同情申し上げます。

まあ、頭が悪いというと言い過ぎかもしれませんが、拙著「ネットで人生棒に振りかけた!」にも書いたように、30過ぎても見積書、納品書、領収書の違いもわからないビジネス素人(私ではない)が社会部では記者やっているわけですよ。

本来あるべき報道とは、あるビジネスの現象(今回は民泊)についてポジもネガも公正にトータルで勘案した記事を書くべきなんでしょうがね。私は社会部記者の経験もあるので、ベンチャーとかイノベーションとか、詐欺に毛が生えた程度にしか見ていない事件記者の同僚を多く見てきました。結局、大手報道機関の実態は、企業経営は経済部が、事件は殺しも企業案件もすべて社会部が、という報道機関の縦割り構造もまた、かみ合わない取材を温存させる結果になります。そうした構造下では、企業や経済・証券取引の見識が乏しい社会部記者は、否応なしに当局の捜査情報に依拠した「特ダネ」合戦に走りやすくなるわけです。

奇しくも同日~村上氏強制調査と旧ライブドア訴訟判決


社会部記者のニューエコノミー報道といえば、折しもAirbnbの会見前日、アノ2人の御名前が報じられていました。村上氏が株価操作をやらかして、SECの強制調査を受け、よりによって同じ日に堀江さんたち旧ライブドア経営陣が民事裁判で9,000万円の賠償を命じる判決もあり、なんだか10年ほど前のヒルズ族栄枯盛衰ワイドショーネタの再来を見せられているような気になりました。「強制調査は判決日に合わせた国策に違いない」的な新たな陰謀説も生まれるのかもしれませんが(苦笑)、まあ、一つ言えることは、強制調査の翌日以降、さっそく、こんな感じで続報が出ております。

村上世彰氏「終値関与」手口で相場操縦か(NNN)
http://www.news24.jp/articles/2015/11/26/07315812.html

他人名義で株大量売却=村上元代表、複数口座使い-相場操縦隠す狙いか・監視委(時事通信)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201511/2015112600049&g=soc

まあ、どの報道もソースは、SECあたりのインサイダー捜査情報がリークされた可能性が濃厚なわけですが、捜査中の情報を小出しに流して捜査対象の人物に対する世間の印象を特定の方向に持っていくかのように古典的手法。一時期、マスコミ関係者の間でも自問自答のネタになっていたのも何となく最近は忘れられているようです。かつて村上ファンド事件取材の折、村上さんや堀江さん周辺の人から特捜の見立てに疑義を呈する高度に専門的な意見があったのをメモ上げしてもスルーされ、あるいは各社とも特捜系の捜査情報で世論がどんどん作られた過程を現認した身としては、既視感を覚えているこの頃です。

メディア環境激変で10年前より報道を検証しやすい


しかし、ライブドア事件、村上ファンド事件の頃とは決定的に、視聴者、読者を取り巻くメディア環境が変わったのには注目しています。当時はマイナーだったブログやネットメディアが市民権を得、SNSやスマホが爆発的に普及。NewsPicksあたりでは、早速弁護士の先生や証券関係で専門的な知見のある方々が速報的にコメントしており、ビジネスど素人の社会部記者が聞き書きしたリーク報道のフィルタリングも適宜行われております(例・第一報の直後の山本一郎さんの記事は投資家の視点で冷静に論評)。

まあ、もちろんあるキュレーターの言うことを鵜呑みにするのはよくありませんが、選択肢が増えたことはいいこと。特捜案件なり、SEC案件なりの検証、あるいは民泊、ビットコインといったイノベーションのメリット・デメリット勘案など、社会部記者の垂れ流すネガティブ報道を多角的に考えやすいご時世になったのではないでしょうかね。今回の強制調査の成り行きも是々非々で冷静に見つめていきたいものです。
ではでは。


新田 哲史
アゴラ編集長/ソーシャルアナリスト
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アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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