「維新」はテロリストの合言葉

池田 信夫

維新の内紛は、松野頼久氏の「維新の党」が解党し、橋下徹氏の「おおさか維新の会」が存続することで決着するようだが、前から気になっているのはこの「維新」という党名だ。

小島毅氏によれば、その最古の出典は『詩経』の「周雖旧邦、其命維新」(周は古い国だが天命を新たに受けた)という言葉で、単に同じ王朝の中で王が代替わりするという意味だった。これが日本では水戸学で誤解され、藤田東湖が尊王思想のスローガンとして使い始め、吉田松陰がその影響を受けてテロリズムを提唱した。

政府が維新という言葉を最初に使ったのは明治元年(1868)の「去冬、皇政維新」という言葉で、これは王政復古の大号令をさす。英語ではRestorationで、これは1660年のイギリスの王政復古のことだ。明治維新と一般に呼ばれる出来事は、実質的には薩長の下級武士による「革命」(王朝の交替)だったが、彼らのよりどころは万世一系の天皇家だったので「維新」と呼び替えたのだ。

しかし明治時代には、維新という言葉はほとんど使われていない。それが頻出するようになるのは、1930年代の昭和維新のときである。テロリストが政党や財閥に「天誅」を下して天皇家の支配に復古しようというとき、この言葉を使ったのだ。その思想的中心は北一輝であり、実行部隊は右翼団体や皇道派青年将校だった。

要するに日本で使われた「維新」とは、現体制を打倒して天皇家の支配に復古するという意味であり、21世紀の政党の名にふさわしいとはいえない。大前研一氏が「平成維新の会」を結成したときも「歴史を知らない」と嘲笑された。

橋下氏が尊王の志士に似ている面もあるが、「維新」は水戸学から吉田松陰をへて北一輝に受け継がれたテロリストのスローガンである。彼はこういう来歴を知った上で使っているのだろうか。