仲間を殺す動物がいかに共存するか 『ヒトの本性』

2015年12月06日 14:03



安保反対のデモをやっている人々は、安倍政権は「戦争法」でアジアを侵略する悪い集団だが、中国や北朝鮮は平和を愛する国なので、集団的自衛権はいらないと思っているらしい。しかし本書もいうように、ヒトは同じ種を殺す唯一の動物であり、「仲よくしよう」というだけで仲よくすることはできない。

これが「攻撃本能」によるものかどうかについては、いまだに決着がついていない。たとえば男が格闘技や球技に興奮するのは遺伝的な攻撃衝動だという説もあるが、殺人の痕跡が確認できる最古の人骨は40万年前だ。これは人類の600万年の歴史の中では最近の出来事なので、もともと他人を殺す本能をもっていたとは考えられない。

殺人が増えるのは、武器をもつようになってからだ。牙も角もないヒトが他人を殺すことは困難だが、石器が発達すると、獲物を殺すのと同じように他人を殺して食えることをヒトは発見した。これは合理的な行動なので、そのための衝動がなくても起こりうるが、互いに殺し合うと集団が全滅してしまう。

そこで殺し合いを防ぐしくみが発達した。その一つは排除である。他人と協調できない攻撃的な個体は「村八分」になり、集団から追放される。逆にそういう敵対的な個体が多数を占めると、集団が全滅する。これが集団淘汰の基本的なメカニズムだ。

もう一つは共感である。殺して食える相手と協力することは合理的ではないので、感情として埋め込む必要がある。そういう共感が遺伝的に備わっていることが、トマセロなどの多くの実験で確かめられた。言語や宗教も、殺し合いを抑止する装置として生まれたと考えられる。

しかし身内で共感の強い集団は、他の集団に対しては攻撃的になる傾向があるので、戦争を自然な感情で抑止することはできない。互いが殺し合うと損するという報復が、もう一つのしくみだ。

特に核兵器は、前線の兵士だけではなく核のボタンを押した政治家も確実に死ぬ相互確証破壊によって戦争の決定を抑止した。ピンカーもいうように、核兵器と軍事同盟の発達した20世紀は(2度の大戦を入れても)歴史上もっとも死亡率の低い時代だったのだ。

しかしこうした国家間の抑止メカニズムは、「イスラム国」のようなテロリストにはきかないので、武力で封じ込めるしかない。もちろん武力だけで平和を守ることはできないが、善意だけで守ることもできない。共感できない相手と共存するには、武力が必要なのだ。

池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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