コンテンツ支援をどう考える? -- ソウルの学会で --- 中村 伊知哉

韓国日語日文学会@ソウル女子大学。盛大な学会です。
ぼくの講演「日本の文化政策と韓国」。コンテンツ政策の日韓比較という微妙な案件について、ゆる~く語ってみました。

でもそこは学会、その後の質疑では、やはり厳しい問いもいただきました。以下のように答えました。

Q1 コンテンツ支援政策は、コンテンツにとって毒になることもあるのではないか?

マンガ、アニメ、ゲームといった規制対象が支援対象に転じたのは、海外での人気に政府が気づいたから。知財本部を設置し、政府全体としてコンテンツ政策を推進するようになったのは2003年のこと。

当時、政府は産業支援に力を入れ、国内コンテンツ産業の拡大を政府目標としたが、その後産業規模は縮小した。失敗である。

今は産業支援よりインフラや制度など「基盤整備」に力が入っている。これは私が知財本部の会議に加わって以降の政策転換と考えている。

政府が自らクール・ジャパンなどと称することにも批判がある。

この点を政府はわきまえて、民間主導の活動を後方応援するという距離感が求められる。大統領制の韓国は政府主導のコンテンツ政策だが、日本は民間主導のアプローチが適している。

Q2 ネット利用者の大半は受動的であり、全員がコンテンツ制作者になるには壁が熱い。政策としてどう考えるのか?

一人あたり情報発信量=コンテンツ制作量の面で日本と韓国は世界のツートップと言える。これをどう維持・発展させるかがコンテンツ政策の要諦だ。産業政策よりも教育政策が重要と考える。学校でデジタル技術を使った創造・表現教育を充実させることが処方箋。

しかし教育情報化に関しては日本はみすぼらしい後進国だ。世界をリードする韓国をモデルとして、端末、ネットワーク、教材を整備するとともに、学校でのソーシャルメディア利用など、当たり前のデジタル環境を実現したい。

Q3 両国をつなぐ参加型コンテンツを活性化するには、コンテンツ自体への支援よりも、メディア環境を整備するほうがよいのでは?

同意する。流通面でのネット環境や放送メディアを整備することがまず重要。留学を活発にして、大学が両国をつなぐメディアとして機能することも大切ではないか。

Q4 日韓両国の文化交流のためには、互いの「共感」が重要ではないか?

同意する。政府の会議でも、海外にコンテンツを輸出するだけでなく、輸入の活発化も通じて互いの共感を高めなければ持続的な展開は不可、ということが論議されている。

Q5 日本における嫌韓、ヘイトの原因は何なのか?

領土問題や大統領の姿勢といった個別の要因は、きっかけに過ぎないと思う。20年の経済低迷、震災、格差拡大、少子化による縮小などの国内問題が長引き、社会が閉塞していて、隣国にもイライラが現れてしまっているのではないか。

対外的な融和のためにも、まずは国内経済の立て直しが最重要と考える。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2015年12月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。