日欧米、金融政策の行方

黒田日銀総裁の12月の定例政策会議後の会見放送を延々と見ていたのですが、「このドタバタは何だったのだろう」という違和感だけが残ったような気がします。ご承知の通り12月18日午後の株式相場と為替相場は大波乱、その間、外出していた私にとってニュースの一報に「ん?」と一瞬、理解に苦しみました。本来であれば分かりやすくストレートなイメージのある黒田日銀丸が今回は妙に分かり難く、それ以上に発表の仕方に問題があって市場を「その気にさせた」というのがストーリーだったのでしょうか?

さて、12月の日欧米の中央銀行のメジャーなイベントが終了し、来週からはクリスマス休暇に入る方も多くなります。海外勢はこれで今年は終わりという方もかなりいらっしゃるはずです。そのメジャーイベントを思い返してみれば緩和姿勢の強かった日欧がその政策で足踏みをしたのに対し、オオカミ少年ならぬアメリカのFRBが満を持して利上げ転換をするという際立った逆転劇の展開となりました。

黒田総裁の2%インフレに対する固執感は依然強く、また、それが達成できるであろうという楽観論も相変らずでした。ただ個人的には絶対に不可能とは言い切れない気がしてきました。

今年の金融相場を狂わせた最大の原因は石油をはじめとする資源価格の下落でありました。この下落は今年に始まったわけではなく、2年、ないし商品によっては数年にも及んでいます。この下落の原因を中国の需要減という切り口だけで説明するのは無理というものでしょう。

中国での実需が減り始めたのは鉄鉱石が一番先だったと記憶しています。その後、連想するように様々な商品に思惑が拡大し、石油もその仲間入りを果たしました。北米では天然ガスも酷い相場つきになっています。が、需要が増えているのが金であります。第3四半期の金の需要は1120トンで前期比14%増、前年同期比7.6%増、5年平均でも1.3%増です。ところがご承知の通りその価格は他の鉄鉱石や石油同様数年来の安値水準にあります。

私はその解は米ドル高にあるとみており、ドル高傾向が止まればゲームチェンジャーになることは何度か指摘させていただいています。

黒田総裁にしろドラギ総裁にしろ、強気のコメントを出しながらも明らかに手詰まり感を見せたのはアメリカの金融政策に相反出来ない苦しさであろうかと思います。これは金融緩和を期待した筋が先回りしてドル買いユーロ、円売りを仕掛けたもののアメリカの利上げが現実となり、さかさまの政策が実際には取りにくいことでその緩和期待がしぼみ、買戻しが入るというシナリオが成り立つのかな、思っています。

黒田総裁は必要に応じて何でもやる、というスタンスを崩していません。が、これをその言葉通りに取るのは無理があります。総裁はあくまでもテーブルの上にある理論上の選択肢を言っているわけで実際には数あるオプションの中でも使える手段は少ないのではないでしょうか?ましてやアメリカではFRBの膨れ上がった資産を今後、どうやって減らしていくのかという議論が本格化するところです。今だ日銀もその明白な手法やタイミングを十分検討しているとは思えず、日銀は来年度再び金融緩和の可能性を探るといったメディアのコメントにはかなり首をひねっています。

もう一つは、これ以上の石油価格の下落は世界中にばら撒かれたオイルマネーによる資産の売却、流動化の動きを加速させることになり株式市場や不動産市場に更なる影響が及びかねません。それゆえに私は日欧米が抱える共通の悩みである低インフレ率の改善には為替をいじるしかないと考えています。

もちろん、かつてのプラザ合意のような大胆なことを行う時代ではないし、そこまでの大義名分はないと思いますが、主要国が強調した方向性を出せば今までの色合いとは全く違ったものが出てきます。ドル安政策は世界経済の膠着感から脱却できる面白い方法だと思っています。一番単純なのは日欧が金融緩和を止める姿勢をみせればよいのではないでしょうか?逆説的ですが、これでドルが安くなり、資源価格は上昇に転じます。日米欧にはインフレ率上昇が加速するのではないでしょうか?

株価をみているとアメリカの利上げを発表した16日から18日までの3日間で620ドル余り、率にして3.5%ほど下げています。手じまい売りと年末が近いので税金対策の売りもあるのでしょうが、株価だけがゲームチェンジャーになったのではないことを祈ります。
では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 12月19日付より