山井和則議員・高橋洋一氏のアベノミクス論に物申す

衆議院議員と経済学者の議論の内容についてかなり疑問を持っている

最初に断ってきますが、自分は経済や雇用の専門家ではありません。しかし、統計上の数字くらいは読めるので世の中の疑問な論説について気が付くことも多少はあります。今日の材料はこちら。

<現代ビジネス・ニュースの深層(12月21日)高橋洋一>
民主党は雇用政策のキホンすら知らないのか…安倍政権批判のつもりが、自らの経済オンチっぷりを露呈

高橋洋一さんの議論は、財政分析のテクニカルな部分に面白みがあるものの、マクロ経済学の記事については中身に絶句するようなものが多く、そろそろ止めておいたほうが良いのではないかと他人事ながら思っている次第。

まず、山井和則議員と高橋洋一さんの的外れな論評について確認する

二人の議論がおかしな前提で成り立っていることを論証するために、上記の記事から2人の主張を引用及びまとめていきたいと思います。

<山井和則議員の主張> 山井議員のTwitterから

(1)「私の質問に対し政府から回答(添付)が来た。2009年9月~2012年12月まで(民主党政権3年間)の実質GDPの伸びは5.7%。2012年12月~2015年9月まで(安倍政権3年間)の実質GDPの伸びは2.4%。(だから)アベノミクスは失敗」(https://twitter.com/yamanoikazunori/status/676429958089084928

(2)「実質賃金の変化に関する私の質問に対し厚労省から回答(添付)。民主党政権3年間(2009年9月~2012年12月)は1.4%減、安倍政権3年間(2012年12月~2015年9月)は3.7%減と、減少幅は2倍以上。生活は苦しくなりました」(https://twitter.com/yamanoikazunori/status/677029865804062720

(3)「なお、名目賃金の伸びは、民主党政権が-2.4%、安倍政権が+1.4%ですが、これは物価が上がったためであり、国民生活に直結する実質賃金は、安倍政権で2倍以上下がっています」(https://twitter.com/yamanoikazunori/status/677030548733214721

<高橋洋一さんの主張>

(1)民主党政権と安倍政権で実質GDPの伸び(上図の傾き)をみれば、民主党政権のほうがいい。しかし、民主党政権誕生の前に、リーマンショックがあり、大きな落ち込みがあれば急落後に急回復するのでその時の伸び率は大きくなる。

(2)民主党政権時代は、安倍政権に比べて、実質賃金は低下しなかった。安倍政権と相対的にみれば、民主党政権時代のほうが実質賃金は高かった。民主党政権時代は、まず最低賃金の引き上げを図った結果として失業は増えた。

(3)雇用を確保したい場合、まず金融緩和で実質賃金を下げ、就業者数を増やすことが大切。そのうえで人手不足になれば、実質賃金は自ずと上がる。金融政策がど雇用に効く理由は一般物価の変動を通じて実質賃金に作用するから。

ということです。山井議員は実質賃金の低下の話、高橋洋一さんは実質賃金低下後の就業者数の話をしているわけです。両者の議論はアベノミクスの金融緩和の是非に直結して行われています。

就業者数増はアベノミクスではなく定年・再雇用と社会保障費増加による福祉系雇用の問題でしかない

ここでは両者がいかに的外れな議論をしているか、そして本当に必要な処方箋とは何かについてまとめたいと思います。

まず、政府が発表している労働力調査を見れば明らかな事実は下記(1)~(4)の通りです。興味がある人は自分でも調べてみると良いと思いますが、民主党政権から安倍政権になっても基本的な傾向は変わりません。

(1)近年の就業者数の減少は定年による労働市場からの退出などであり、直近の就業者数増は一度退出した高齢者の出戻りと女性による低賃金の就労が増加したことが要因。

(2)民主党政権・安倍政権でも福祉・医療関係の就業者数の増加が大きく、新たな働き口の大半は社会保障費の芋づる式の増加によって生まれたもの。アベノミクスによる就業者数増の正体は社会保障費を増加させているだけのこと(2009年からの雇用増の約60%は福祉・医療系雇用)

(3)福祉・医療関係と非正規労働者の増加は産業構造の質的な環境変化であり、政府が社会保障費増加を少しでも抑制するために福祉・医療関係の賃金を圧縮する限り大幅な増加を見込むことは不可能。

(4)したがって、山井議員と高橋洋一さんは二人とも経済論は雇用の質的変化を無視したものであり、日本経済の深刻な状況について正しく認識した上で議論するべき。

民主党も自民党も経済改革の能力無し、日本経済の真の構造改革が求められている

以上の分析の結果、就業者数と実質賃金の変化は定年・再雇用と社会保障費の増加の結果であることが分かると思います。

そして、旧態依然としたビジネスモデルを維持するために安価な非正規労働者が投入されるとともに、社会保障費増加によって賃金を抑えられた福祉・医療関係の従事者が増えています。つまり、景気との連動性が低い就業者数が主に増加していることになります。

民主党政権・安倍政権でもほとんど上記の傾向は変わらず、更にアベノミクスによる金融緩和は古いビジネスモデルの産業の延命装置として機能しており、日本経済の構造改革を更に遅らせる結果を生み出しています。

民主党・安倍政権のいずれも現実の日本経済の問題を解決できず、既存産業向けのモルヒネを打ちながら徒に時を過ごしているのです。

特に、情報通信業、学術研究,専門・技術サービス業などの高付加価値サービスである可能性が高い産業については民主党政権・安倍政権のいずれも就業者数の伸びが不十分であり、規制緩和・構造改革を加速化させて就業構造全体の変革を起こすことが急務と言えるでしょう。VCによる投資を加速してスタートアップ企業が活躍しやすい環境を促進し、根本的に新しい雇用を創り出すことが望まれます。

非正規労働者や福祉・医療関係の労働者が増加したところで低賃金から抜け出すことはできず、日本経済のビジネスモデル全体を変革していくことが働く人が幸せになることにつながります。

渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)
早稲田大学公共政策研究所地域主権研究センター招聘研究員
東京茶会(Tokyo Tea Party)事務局長、一般社団法人Japan Conservative Union 理事
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