日本の高等教育に大きなうねり「ぶり奨学金」 --- 井上 貴至

2015年12月23日 20:30

日本の国内総生産(GDP)に占める教育機関への公的支出の割合は、OECD(経済協力開発機構)に加盟国で、比較可能32か国の中で最低の3.5%

というニュースが衝撃を与えました。
(例えば、2015年11月25日毎日新聞)
 http://mainichi.jp/articles/20151125/dde/041/100/057000c

とりわけ高等教育は深刻で、

●アメリカは、学費は高いが奨学金が充実。
●ヨーロッパ大陸は、総じて学費が安い。
●北欧は、学費が安い上に奨学金も充実している。
⇒ 学費が高く奨学金が充実していないのは「日本」だけ

と、言われています。

そのような状況の中、鹿児島県長島町(ながしまちょう)では、面白い取組が進行中です。
名付けて「ぶり奨学金」。

buri-1

長島町は世界最大の「ぶり」の町。町内の東町漁協は、「鰤王」のブランドで日本で初めてEUの厳格なHACCP認証を取得、今では輸出額20億円、27か国に輸出しています。

一方、町内には高校や大学がない長島町。

高校入学時には、
●片道1時間程度かけてバスで通うか
●寮に入るか
●あるいは家族全体で学校の近くに引っ越すか

ということを余儀なくされ、他の地域と比べて追加的な子育て費用がかかります。

そのため経済的事情により2人目、3人目の子どもを諦めることも珍しくなく、また、高校時代から町外に出るため卒業後もほとんどが町の外で働くこととなり、若者人口の減少が続いています。

長島町は、日本創世会議(座長:増田寛也)の消滅可能性自治体のひとつにも掲げられています。

buri

回遊魚かつ出世魚の「ぶり」にあやかり、卒業後は地域に戻ってリーダーとして活躍してほしいとの願いを込めたのが、「ぶり奨学プログラム」です。具体的には、以下の事業や制度で構成されます。
 
 1・通常の金利より優遇された「ぶり奨学ローン

 2・ぶり奨学基金から元金及び利息相当額を補填する「ぶり奨学金制度

 3・事業者やふるさと納税等から基金に寄付する「ぶり奨学寄付制度

 4・出身の生徒・学生や卒業生の交流事業「ぶり奨学交流事業

 5・地域における就職・起業を支援する「ぶり就職起業支援事業

buri3

「ぶり奨学プログラム」の画期的な点は、3つです。

1.金融機関が自治体のために独自の奨学ローンを創設

今回の地方創生では、産官学金労言が連携することが求められますが、金融機関が自治体のために独自の奨学ローンを創設するのは、全国で初めての画期的な取組です。高校在学中は毎月3万円大学・専門学校等在学中は毎月5万円まで、「ぶり奨学ローン」として借りることができます。
 
長島町では、「ぶり奨学金制度」として、出身の生徒・学生が卒業後に長島町に戻ってきた場合に、元金相当額をぶり奨学基金から補填(利息については、長島に戻ってくるか否かにかかわらず全額を補填)します。高校から大学院まで通った場合は最大468万円+利息分が補填されることになります。
 
無担保で長期間の奨学ローンは、一般的に利息が高くなりがちであるが、「ぶり奨学ローン」では、鹿児島相互信用金庫の協力のもと、保証料込みで1.5%という低金利を実現。将来の町民や町の負担を軽くすることができました。
 
また、長島町と鹿児島相互信用金庫が締結した連携協定書では、少なくとも1年に1回今後の支払い見通しなどについて、協議することも盛り込まれました。

2.「長く」持続する制度
奨学金制度は、安心して子育てできるよう、これから生まれてくる子供たちが高校・大学等を卒業後10年間かけて返済・補填する期間(少なくとも50年間)は、制度として持続することが求められます。
 
そのため、長島町においては、鹿児島相互信用金庫と協定書を締結したことに加えて、町の多くの事業者や出身者がぶり奨学基金に寄付をする仕組みをつくりました。

行政だけで補填金を負担するようになると、将来の財政負担が重たくなるだけでなく、「どうせ行政のお金だから」というモラルハザードが生まれる可能性や、将来の町長や議員が「もうやめた」という可能性も否定できません。

そのときに、町の多くの事業者や出身者がぶり奨学基金に寄付をしていると、将来の町長や議員も「もうやめた」ということは言いづらいし、利用する町民も町のみんなが支えた奨学金だから「無駄遣いはやめよう」という気持ちが生まれると考えています。

そして、ビール1杯1円などのぶり奨学基金への寄付は、地域内での経済の循環を促します。
 
「お父さん、また飲んで♪」と言われても、「いやいや、俺はビールを飲んで、島の子育てを応援しているのだ!」と“言い訳”することもできます。モノやサービスが飽和する現代社会においては、健康にいい、環境にいいなど“言い訳”できることも重要です。

信用金庫も含めて、多くの産業はその地域の人口減少にほぼ比例して、経済活動も縮小していかざるを得ませんが、「ぶり奨学プログラム」をきっかけに若者が町に戻り、地域の中で後継者や消費者が育てられることを期待したいです。

3.「広く」応用できる制度。
これまでの移住定住政策は「100万円あげます」とか、「家あげます」とか、ともすれば他の自治体との移住者獲得競争が目につきましたた。ところが、「ぶり奨学金プログラム」は、子育てしやすく、出身者を戻りやすくするもので、他の自治体と競合するものでは全くありません。

「競争から協奏へ。」
2016年1月には沖永良部島の知名町の職員等が「ぶり奨学プログラム」の導入を目指して、長島町に学びに来られます。鹿児島相互信用金庫にも多数の問い合わせがあると聞いています。

全国の自治体においても、金融機関や地元の事業者等と連携して、鮭奨学金、カツオ奨学金、イルカ奨学金、ツル奨学金など御当地奨学金をぜひつくってほしいです。

今、注目!ぶり奨学金
〇NHK(全国放送)
 http://www.nhk.or.jp/d-navi/link/sosei/

〇産経新聞
 http://www.sankei.com/region/news/151105/rgn1511050058-n1.html

〇毎日フォーラム
 http://mainichi.jp/articles/20151209/org/00m/010/082000c

〇週刊ダイヤモンド
 http://diamond.jp/articles/-/83504

YAHOOニュースにも転載された「週刊ダイヤモンド」の記事の中で、

『地方創生の好事例は、地域性が関係していたり、秀でた人材が長年かけて築いたモデルであったりして案外、他の地域ではまねできないことが多い。
 
それに対して井上副町長は「ぶり奨学金は制度として十数年残る。しかもこれは全国でまねできる仕組みだ」と語る。少ないリスクで地域に長く残る仕組みを、しかも短期間で築いたのである。』

と書いていただきましたが、ぜひこれは真似してほしいですね!
そのために、私も鹿児島相互信用金庫も協力を惜しみません。

<関連記事>
地方創生「産官学金労言」という落とし穴
http://blog.livedoor.jp/sekainotakachan/archives/68414198.html

地方創生。今さら「なにすっぺ」というあなたへ
http://blog.livedoor.jp/sekainotakachan/archives/68483266.html

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<井上貴至(長島町副町長(地方創生担当)プロフィール>
http://blog.livedoor.jp/sekainotakachan/archives/68458684.html

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http://blog.livedoor.jp/sekainotakachan/archives/68480758.htmlburi


編集部より:この記事は、鹿児島県長島町副町長、井上貴至氏のブログ 2015年12月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は井上氏のブログ『「長島大陸」地方創生物語~井上貴至の地域づくりは楽しい~』をご覧ください。


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