軽減税率の線引きが提起する「新聞とは何か」問題

2016年01月06日 21:50

日経ビジネスオンラインの連載コラムで、軽減税率の導入に反対する理由を5つ説明したが、昨年末に軽減税率の導入が決まった。

全く残念な決定だが、軽減税率の賛否とは関係なく、今回の「軽減税率」の線引きを巡る議論で、「新聞とは何か」という本質的な問いが改めて提起されるのではないか

まず、時系列で、軽減税率の導入に関する政治決定の流れを確認しておこう。まず、2015年12月12日、以下の通り、自民・公明両党は軽減税率制度の大枠を合意した。

軽減税率制度についての大枠

(1)2017年4月1日に消費税の軽減税率制度を導入する。
(2)飲食料品にかかる軽減税率の対象品目は以下のものとし、適用税率は8%(国・地方合計)とする。
 ・食品表示基準に規定する生鮮食品および加工食品(酒類および外食を除く)
(3)軽減税率制度の導入にあたっては、財政健全化目標を堅持し、安定的な恒久財源を確保することについて、自民、公明両党で責任を持って対応する。このため、16年度税制改正法案において以下の旨を規定する。
 ① 16年度末までに歳入および歳出における法制上の措置などを講ずることにより、安定的な恒久財源を確保する。
 ② 財政健全化目標との関係や18年度の「経済・財政再生計画」の中間評価を踏まえつつ、消費税制度を含む税制の構造改革や社会保障制度改革などの歳入および歳出のあり方について検討を加え、必要な措置を講ずる。
(4)21年4月にインボイス(税額票)制度を導入する。それまでの間は、簡素な方法とする。
(5)軽減税率制度の導入に当たり混乱が生じないよう、政府・与党が一体となって万全の準備を進める。このため、政府・与党に必要な体制を整備するとともに、事業者の準備状況などを検証しつつ、必要に応じて、軽減税率制度の円滑な導入・運用に資するための必要な措置を講ずる。
 16年度税制改正法案において上記の旨を規定する。


その数日後、上記大枠の合意に基づき、12月16日、自民・公明両党は「2016年度税制改正大綱」を決定した。上記大枠の合意段階では、軽減税率の対象品目として、「酒類及び外食を除く飲食料品」のみを想定していたが、税制改正大綱の決定段階では「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」が加わった。

なお、「書籍・雑誌」については、「その日常生活における意義、有害図書排除の仕組みの構築状況等を総合的に勘案しつつ、引き続き検討する」旨、明記された。

2016年度税制改正大綱で示された消費税の軽減税率の対象品目に関し、日本新聞協会は同日、白石興二郎会長の談話を発表した。談話は以下の通りである

与党の税制改正大綱は、週2回以上の発行で定期購読される新聞を軽減税率の対象とした。新聞は報道・言論によって民主主義を支えるとともに、国民に知識、教養を広く伝える役割を果たしている。このたびの与党合意は、公共財としての新聞の役割を認めたものであり、評価したい。私たちは、この措置に応え、民主主義、文化の発展のために今後も責務を果たしていく所存である。ただ、宅配の新聞に限られ、駅の売店などで買う場合が除かれた点は残念だ。一方、書籍や雑誌については引き続き検討されることとなった。多くの主要国は書籍・雑誌も軽減税率の対象としている。新聞協会は知識への課税強化に反対してきた。あらためて書籍・雑誌も軽減税率の対象に含めるよう要望したい。


上記の談話に対し、「生活必需品である電気・ガス・水道などを差し置き、新聞のみが軽減税率の対象となる理屈が理解不能」といった批判があるが、むしろ、今回の決定は「新聞とは何か」という本質的な問いを投げかける契機になっているように思われる。

というのは、「新聞」「書籍」「雑誌」は社会通念上の呼称であり、昔は1949年に廃止された新聞紙法があったが、現行法令上、新聞とそれ以外を区分する客観的な規定は存在しないからである。

新聞紙法は、明治政府が言論統制を行うために1875年に制定した「新聞紙条例」を廃止し、その強化版として1909年に制定されたものである。戦前、新聞紙法は出版法と併せて検閲を強化し、表現の自由を侵害する契機になったため、戦後の1949年に廃止された。既に廃止となった新聞紙法では、新聞紙を以下のように定義していた

新聞紙法(明治42年5月6日法律第41号)

第1条
① 本法ニ於テ新聞紙ト称スルハ一定ノ題号ヲ用ヰ時期ヲ定メ又ハ6箇月以内ノ期間ニ於テ時期ヲ定メスシテ発行スル著作物及定時期以外ニ本著作物ト同一題号ヲ用ヰテ臨時発行スル著作物ヲ謂フ
② 同一題号ノ新聞紙ヲ他ノ地方ニ於テ発行スルトキハ各別種ノ新聞紙ト看做ス


つまり、一定の題号を用いて一定の期間内に発行または6か月以内で時期を定めずに発行する著作物などは全て、新聞紙の概念に該当し、必ずしも新聞だけでなく、戦前は定期的な雑誌等も新聞紙法の規制対象としていた。

いま政府が提供する「法令検索システム」を利用して、念のため、現行法令上「新聞」の定義が存在しないか調べてみたが、どうやら存在しない(注)。

いろいろ調べてみたが、独禁法(正式名称「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)」)第2条第9項の規定との関係で、以下の告示があるだけのようである。

新聞業における特定の不公正な取引方法(昭和39年公正取引委員会告示第14号)

1 日刊新聞(以下「新聞」という。)の発行を業とする者(以下「発行業者」という。)が、直接であると間接であるとを問わず、地域又は相手方により、異なる定価を付し、又は定価を割り引いて新聞を販売すること。ただし、学校教育教材用であること、大量一括購読者向けであることその他正当かつ合理的な理由をもってするこれらの行為については、この限りでない。
2 新聞を戸別配達の方法により販売することを業とする者(以下「販売業者」という。)が、直接であると間接であるとを問わず、地域又は相手方により、定価を割り引いて新聞を販売すること。
3 発行業者が、販売業者に対し、正当かつ合理的な理由がないのに、次の各号のいずれかに該当する行為をすることにより、販売業者に不利益を与えること。
一 販売業者が注文した部数を超えて新聞を供給すること(販売業者からの減紙の申出に応じない方法による場合を含む。)。
二 販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること。
備考
この告示において、「日刊新聞」とは、一定の題号を用い、時事に関する事項を日本語を用いて掲載し、日日発行するものをいう。
附則
この告示は、平成十一年九月一日から施行する。


この告示の備考には、「「日刊新聞」とは、一定の題号を用い、時事に関する事項を日本語を用いて掲載し、日日発行するものをいう」といった定義が記載されているが、これは基本的に毎日発行する「日刊新聞」の定義であって、日刊新聞や週刊新聞を含む「新聞一般」の定義ではない。

つまり、2016年度税制改正大綱では、「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」を軽減税率の対象とする方針を明記したが、現行法令上、そもそも「新聞」の定義が不透明という問題を抱えている。

既に説明したように、1949年に廃止された新聞紙法における「新聞紙」の定義は、独禁法の告示と似たものだが、それは定期的な雑誌等も同法の規制対象にあった。しかも、現在の日本や海外では印刷媒体をもたないオンライン新聞なども存在し、場合によってはメルマガや連載ブログも新聞の概念に該当する可能性もある

もっとも、「日本新聞協会」という一般社団法人が存在する。このため、「この協会に加盟しない場合は新聞でない」と定めることも考えられるが、今国会の軽減税率を巡る与野党論戦で、「新聞とは何か」という議論が改めて提起される予感がしてならない。

(法政大学経済学部教授 小黒一正)

注:公正取引委員会告示の「日刊新聞」の定義に似たものだが、以下の法律・条文はある。


日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社の株式の譲渡の制限等に関する法律(昭和26年法律第212号)

(株式の譲渡制限等)
第1条 一定の題号を用い時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社にあつては、定款をもつて、株式の譲受人を、その株式会社の事業に関係のある者に限ることができる。(略)

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