【映画評】フランス組曲 --- 渡 まち子

第2次世界大戦中の1940年6月、ドイツ占領下のフランスの田舎町。厳格な義母と暮らす美しい人妻リュシルは、戦地へ赴いた夫を待ちながら暮らしていた。ある日、町にナチス・ドイツ軍がやってきて、リュシルが住む屋敷に、ドイツ軍将校のブルーノが住むことになる。占領国の男と被占領国の女、さらに人妻という立場ながら、共に愛する音楽を通じて、リュシルとブルーノは次第に惹かれあっていく…。

アウシュヴィッツで亡くなった作家イレーヌ・ネミロフスキーの小説をもとにしたラブストーリー「フランス組曲」。仏女性と独軍将校との愛を軸にして、占領下のフランスに住む人々の日常がこまやかに描かれる。ナチス・ドイツに対する姿勢はそれぞれで、媚びへつらう者もいれば沈黙する者もいる。誰もが必死に生きのびようとした時代には、正義感にかられて抵抗運動(レジスタンス)をしないからといって責められない。そんな厳しい時代を背景にしてはいるが、本作は基本的にメロドラマだ。

ただ、自分が住む町で義母のいいなりになって暮らすだけだったヒロインのリュシルが、許されない愛にとまどいながらも、やがて、広い世界を知ろうと変化していく様は、普遍的な成長のドラマになっている。原作となったネミロフスキーの小説は未完の遺稿だったが、実娘が出版したその小説はたちまちベストセラーになったそう。ホロコーストというこれ以上ない過酷な状況下で書きためたのが、繊細で抒情的なラブストーリーだったというのが、思いがけず新鮮だ。厳格で嫌味な義母の意外な側面や、敵側のドイツ軍兵士の感情も描くなど、複雑な人間ドラマとしても見応えがある。もろいようでいてしたたかに生きるヒロインを、ミシェル・ウィリアムズが好演。タイトルのフランス組曲とは、ブルーノがピアノで奏でる楽曲名のことで、その哀しく美しいメロディーが心に残る。
【65点】
(原題「SUITE FRANCAICE」)
(英・仏・ベルギー/ソウル・ディブ監督/ミシェル・ウィリアムズ、クリスティン・スコット・トーマス、マティアス・スーナールツ、他)
(抒情度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年1月10日の記事を転載させていただきました(動画はアゴラ編集部)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。