【映画評】パディントン --- 渡 まち子

ロンドンのパディントン駅に、真っ赤な帽子をかぶった小さなクマが降り立つ。家を探しに南米ペルーのジャングルの奥地からやって来たそのクマは、紳士的な態度と丁寧な言葉使いで通行人に話しかけるが、彼がクマだからか、誰からも相手にされない。やがて新切なブラウン一家と出会った彼は“パディントン”と名付けられ、一家の屋根裏に住みながら家を探すことに。初めての都会暮らしにとまどいながらも、純粋なパディントンは、次第に街の人気者になっていく。だが、謎の美女ミリセントが、パディントンを誘拐しようと狙っていた…。

世界中で愛されているマイケル・ボンドの児童文学「くまのパディントン」を実写映画化した「パディントン」。ポスターやチラシを見るかぎりでは、なんだかあまり可愛くない。というよりリアルすぎてキモい。原作の挿絵のパディントンの愛らしさを返せ~!と、ひそかに憤っていたのだが、いざ映画を見てみると、意外なほど可愛いのだ。動いてナンボだったのか、パディントン!紳士的で丁寧な言葉使い、性格はかなりドジだけど、誠実でピュアなクマ。なるほど人徳、いや熊徳がある。

ストーリーは、パディントンと、ちょっぴり変わり者のブラウン一家との心温まる日々から、ある理由からパディントンをつけ狙う美女ミリセントとの攻防という冒険物語へ。悪役を演じるニコール・キッドマンがノリノリで、まるでMIPのトム・クルーズばりのアクションまで披露して笑わせる。何よりも驚いたのは、パディントンの声を演じるベン・ウィショーの演技力だ。声のトーンだけで、あれほどパディントンの野性と知性、健気さまで表現できるとは!一見子どもむけのファンタジー映画だが、根底に流れるテーマは、他者との違いを喜び合う社会を目指すこと。人種や宗教の差異による争いが絶えない現代社会には、最も必要なメッセージかもしれない。
【65点】
(原題「PADDINGTON」)
(イギリス/ポール・キング監督/ベン・ウィショー(声)、ヒュー・ボネヴィル、サリー・ホーキンス、他)
(ほのぼの度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年1月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。