参院選を前に消費税10%引き上げに関する是非が問われていますが、そもそも竹下元総理が実現した消費税法案は、国民や野党に反対され続けたにもかかわらず、なぜ可決されたのでしょうか? TV「上田晋也のニッポンの過去問」が探った竹下内閣の舞台裏をレポートします。
消費税3%導入が実現するまでの背景
消費税のルーツは、1979年に遡ります。大平元総理が一般消費税を閣議決定したのがその始まりですが、このとき国民の反発にあった自民党は総選挙にて議席が大幅に減少、やむを得ず導入を断念します。さらに1987年2月、中曽根元総理が売上税法案を国会に提出しましたが、再び国民の大反対により廃案となっています。
しかし、竹下内閣がこれを引継ぐと、消費税導入を柱とする「税制改革関連法案」が1988年12月に可決。10年もの間、国民、そして野党により大反対され続けてきた消費税が1989年(平成元年)4月1日に実施されました。まさに、三度目の正直といえるでしょう。
消費税の導入が必要だった理由
当時、消費税導入が必要だった理由について、TBS解説委員 龍崎孝氏が次のように伝えました。
「1973年にオイルショックがあり、日本の経済が陰りを見せ始めました。収支のアンバランスを乗り越えていくために建設国債、特例公債(赤字国債)を発行せざるを得ない状況の中で、所得税の捕捉率が約100%であるサラリーマンと、そこまで捕捉できない自営業、農業などの不公平感を是正するためには、誰でも買えば必ず支払う消費税の導入が必要だったのです」
野党に花を持たせた竹下元総理の天才的な根回し交渉術とは?
自民党の一党支配で政権を握っていた大平内閣、中曽根内閣は、反対された消費税も多数決で必ず通る環境にあったはずですが、「そこまで無理をして入れる必要があるのか?」「導入してしまうと、次の選挙で戦えないのでは?」という考えを持った身内(自民党内)をまとめきれず、失敗に終わったといいます。しかし、竹下元総理は、みごとに身内をまとめきり、野党までも自分が描いたストーリーに巻き込んでいきました。番組では、野党に対しても気配りを忘れなかったという竹下元総理の人柄を、地元の関係者が次のように語っています。
古瀬誠氏(島根県商工会議所連合会会頭)
「根回しが完璧。人の気持ちを捕まえるのが一番の才能で、野党も手の内に入れることができた人。人の名前を覚える、顔を覚えるなど誰にも増して人を大事にしておられたので、普通の人はイチコロでした」
白築庫敏氏(教員時代の同僚)
「すぐに人の名前、顔を覚えていました。1回会っただけで、2度目に会っときに声をかけてくれた、という人がいました」
また、役人に対して決して追い打ちをかけて詰め寄るようなことをしなかったという竹下元総理。野党に対しても「反対している姿を国民に見せなきゃいけないだろう」と、国会中継がある日はつかみ合ったりする見せ場をつくったり「ガツンとこっちが出るから、詰め寄ってくれ」というような配慮を欠かさなかったとか。
しかし、「最後の採決のときには必ず議場に出てきてくださいね」と約束させることで、自民党単独の強行採決横暴を防ぎ、野党の評価も得て、そして、最後はもちろん自民党が多数で通る。議会を演出しストーリーを描くことに長けていた竹下元総理だからこそできた秘策といえるでしょう。
底力のあった竹下政治にも欠点があった
消費税導入を実現した竹下内閣でしたが、国民の反発とリクルート事件の影響が重なり、わずか2か月後に総辞職へと追い込まれていくことに。
横の支配(日本列島全ての衆議院議員から各地の情報を網羅)と縦の支配(官僚、業界団体、野党、いろんな階層の人たちからの情報を網羅)、この二つを支配し自在に動かしてした竹下政治の唯一の欠点について、最後に龍崎氏が次のように語りました。
「たくさんの政治家を抱えていくためには、いろんな意味で分配が必要でした。ところが、日本社会が右肩あがりではなくなったがゆえに消費税導入が必要になったわけですね。この消費税導入という右肩上がりの社会を否定する税制の導入に、右肩上がりのときに創り上げたこのシステムを使った…。ある意味皮肉のところがあったのではないでしょうか」
このような経緯で導入された消費税。当初3%でスタートしたときから28年後となる2017年4月に、10%への引き上げが予定されています。安倍総理は10日のテレビ番組において「リーマンショックのような事態にならない限り予定通り増税を実施する」と述べており、「消費税再増税」は来夏の参院選争点のひとつとなるでしょう。現在の首相、安倍総理の根回し術が導く消費税の結末はいかに…。今後の動向が注目されます。
選挙ドットコム編集部
編集部より:この記事は、選挙ドットコム 2016年1月15日の記事「北川景子を射止めたDAIGOもびっくり!「絶対無理」と言われた消費税を成立させた、竹下元総理の天才的交渉術」を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は選挙ドットコムをご覧ください。