通信・放送の融合から10年 --- 中村 伊知哉

2016年01月18日 13:00

通信・放送の融合。政府として始めて議論の俎上に上ったのは1992年電気通信審議会。そして実態として動いたのは今から10年前のことでした。

2005年にライブドアや楽天が放送局の買収工作を見せ、2006年初頭のCESで米IT企業が一斉に映像配信ビジネスへの参入を宣言。メディア構造転換が待ったなしとなりました。

当時、竹中平蔵総務大臣が松原聡東洋大学教授を座長に「通信・放送の在り方に関する懇談会」、いわゆる竹中懇・松原懇を開催し、その示す方向が通信・放送業界に激震を与えました。小泉総理の腕力も手伝い、それが政府与党合意、骨太の方針となって第一次安倍政権へと引き継がれます。
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/tsushin_hosou/pdf/060606_saisyuu.pdf

それから10年です。 
 
議論の始まる2006年2月、ぼくは日経経済教室に「通信と放送 融合を探る 世界に先駆け日本型を」と題して寄稿しました。通信と放送の二分法を抜本的に改め、伝送路の区分を撤廃することを提案するものです。

「コンテンツの規律も、通信と放送という単純な区分より、消費者保護、プライバシー保護などきめ細かい多元的な社会要請に応える仕組みが必要。」

「電気通信事業法や放送法といったタテの規律を、無線・有線伝送路法とサービス・コンテンツ法のようなヨコの仕組みに再編するなど、世界に先駆けて「日本型」の法体系を構築すべきである。」

当時、こんな具合にあれこれ提案し、オモテ・ウラで調整を重ねました。ぼくの立場は規制緩和一辺倒だったのですが、誤解もされ、規制強化だと叩かれたり、仕事を干されたりもしました。

でも、その後5年で通信・放送法制度はヨコ割りレイヤ型へと抜本改正がなされ、規制緩和も行われました。おおむね願っていた方向に進みました。

ただ、その成果が上がっているとは言えません。本格的な融合サービスが現れ、利用者が恩恵を受けるのはまだこれから。AppleやGoogleの映像ビジネス参入に驚いて10年。今なおNetflixの上陸に驚いての変化を待たねばならないのでしょうか。

さて、昔の資料を整理していたら、10年前の元旦に書いたペーパーを見つけました。政府での本格議論が始まる前に綴ったもの。世間に出せなかった個人メモですが、座興までに貼り付けておきます。

1~4までの通信・放送法制は、少しはその方向に進みました。5と6の特殊法人制度は手つかず。ぼくは今は、7のデジタル著作権に関する議論を知財本部で進めています。8の子どもに関しては、デジタル教科書の整備を進めています。10の文化省設置は、今もお題目だけ唱えています。

10年たって、進んだような、何も進んでいないような、です。

□メディア法制改造大綱
2006.1.1

メディア環境は、思想・表現の自由はもちろん、生存権や参政権などの基本的人権を保障する手段であり、かつ、産業・文化・福祉・国防等のための基盤となる。これを旨としつつ、デジタル技術の進歩、20世紀型メディアの普及の進展、メディア市場競争状況の変化その他の環境変化を踏まえ、国民が情報の生産、流通及び消費を円滑に行うことができるようメディア法制を再構成する。

「通信・放送の二分法」に立脚した「事業・提供者行政」を基本としつつ特殊法人という「公的機関」を主軸に据えている現行制度の枠組みを改め、「メディア融合・レイヤ別制度」、「役務・利用行政」、「官民分担明確化」へと移行する。

1. 公衆電気通信法
○ 事業及び事業者行政を役務及び利用行政に改め、通信・放送共通のアクセス面の法制として、通信・放送ネットワークに関する公正・適正利用の確保、接続・ユニバーサルアクセスの確保、番号管理等に関する法律を策定する。これに伴い電気通信事業法を廃止する。

2. デジタル放送法
○ 放送法、有線テレビジョン放送法、電気通信役務利用放送法を廃止し、電気通信役務利用放送法のスキームを基礎とする新しい放送法を構成する。公衆直接受信要件を満たし番組規制を受け容れるものとして認定を受けた者に著作権法及び電波法上の特典を付与する。なお、これを含むコンテンツ規制は、児童ポルノ法、風営法その他の法律との役割分担を図り多元的な規律体系とする。

3. 電波法改正法
○ 帯域免許を導入するとともに、個人利用以外はMVNOを基本とする。放送は電気通信役務利用放送法スキームを基本とするが、(有線も含め)ハード・ソフト一致型のビジネスも認める。この場合、通信役務の提供義務は外すものの、その特典に見合う電波利用料を徴収する。

4. 有線電気通信法改正法
○ 電気通信事業法及び有線テレビジョン放送法がカバーする有線インフラ規制(技術基準その他インフラに求められる要件)を移管し、電波法と同程度のレイヤを扱う法律とする。

5. 日本電信電話株式会社法廃止法
○ NTTを完全民営化する。特殊法人たるNTTに求められているユニバーサルサービス確保と研究開発の要請は、それぞれ他の法律で手当てする。通信主権の確保については、国家危機管理法制ないし有線電気通信法・電波法にて措置を講ずる。

6. 日本放送株式会社法
○ NHKをハード・ソフト分離し、ハード(伝送路)部門は通信会社として独立させ、公衆電気通信法、有線電気通信法、電波法の規律を適用。その電波を活用し、ハード・ソフト分離での地上波デジタルテレビ局の新規参入を実現する。NHKのソフト部門のうち、受信料でまかなう領域は引き続き特殊法人とするが株式会社化し根拠法を独立させる。この特殊法人には番組アーカイブのインターネット開放を義務づける。

7. デジタル著作権法
○ 登録を受けたデジタル情報を対象とし、P2P推進など、情報の共有、流通及び消費を円滑化するための措置を講ずる著作権法の特例法を策定する。

8. 子どもデジタル法
○ 子どもが最先端のデジタル技術を安全にかつ安心して享受・利用できるよう環境整備するための法律を策定する。

9. 情報通信研究開発法
○ NTT及びNHKの研究開発組織、情報通信研究開発機構、ATRその他の関係機構を統合・再編成するとともに、産学連携を推進する措置を講ずる。

10. 文化省設置法
○ 文化庁に総務省テレコム2局、同行政管理局(e-gov)、経済産業省商務情報流通局の関連部局を統合した官庁を置く。官庁の増加を防ぐため、経済産業省と農林水産省を統合し、農商務省とする。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年1月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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