米軍機は「ヘリウム3」を捕集したか --- 長谷川 良

北朝鮮が今月6日、4回目の核実験を実施し、初の「水爆実験」と宣言した。今のところ欧米諸国では「北側のいつもの誇大妄想だ」という声が支配的だ。通常の核実験(原爆)であった可能性はあるし、ひょっとしたらブースト型核分裂だったのではないかと受け取る専門家もいるが、「水爆実験だった」と積極的に信じる専門家はさすがに北側しかいない。

「原爆」か「ブースト型核分裂」、それとも「水爆」かの議論は目下、結論を下すのが難しい。放射性物質がキャッチされるまでその答えを保留して、北の今回の核実験報道をフォローしていて、当方が漠然と考えてきたことを書いてみたい。当方の推理にお付き合いして頂ければ幸いだ。

韓国側は北の核実験直後、「米軍は北の核実験を事前に掌握し、監視していた」「米軍は無人機を飛ばして、北の核実験地点で監視していた」という米国発のニュースに神経質になっている。それが事実とすれば、米韓両国間で締結した情報提供に関する合意に反するからだ。米軍が事前に北の実験を知っていたというニュースは米NBC放送など複数の米メディアが米政府高官筋として報じている。

北は今回、核実験を中国側に事前に通達していない。現在の険悪な中朝関係を考えれば、十分考えられるが、米国が北の核実験を事前に知らなかった、ということを当方は信じられない。米国は北の動向を知っていたから実験を監視するために実験日の前後、無人機を飛ばして実験上空を集中的に監視していたのではないか。

金正恩氏が昨年12月15日、水爆実験を指令し、今月3日、文書に署名したということは、金正恩第1書記と実験担当官、人民軍らとの間にやり取りがあったはずだ。そのやり取りを米国はキャッチしていたはずだ。

米軍が過去、北の3回の核実験を事前に監視していたというニュースは流れなかったが、今回、流れた。米軍は事前監視のため無人機を飛ばし、実験前後の様子を捕まえようとしたというのだ。考えられる推理は、過去3回の核実験とは異なり、水爆実験の可能性があると判断したからではないか。水爆実験を確認するためには、核融合で放出される極微量のヘリウム3をキャッチしなければならない。

東工大原子炉工学研究所助教の澤田哲生博士は、「水爆実験由来のヘリウムは実験場の上空で実験を待ち構えて捕集しないと、容易には捕獲されない。時間の経過とともに、捕獲は絶望的になる」と指摘している。

ヘリウム風船を思い出しても分かるように、軽く上昇していく。だから、米無人機は実験拠点上空に待機してヘリウム3の有無を確認するのが狙いだったのではないか。3回目の核実験では放射性物質キセノンは実験50日以上経過した後、検出されたが、ヘリウム3の場合、実験後、数日が勝負といわれる。それを逃すと、水爆実験か否かを確認するのが困難となるというわけだ。

北の「水爆実験」を否定する専門家は「今回の爆発規模が水爆実験としては余りにも小さい」という理由を挙げるが、核爆発の規模は調整できる。だから、爆発規模だけでは判断できないわけだ。
 
米軍は水爆実験を事前にキャッチし、実施日前後、無人機で監視し、ヘリウム3を検出しようとしたが、キャッチできなかった。そこで米政府は北の水爆実験はなかった、ないしは失敗したと判断した。

少し、穿った見方をするならば、米軍無人機はヘリウム3をキャッチしたが、北が水爆実験を実施したことを認知したくないこと、米共和党の批判の声が高まることを恐れ、オバマ政権は意図的に北の水爆実験を無視する姿勢を取っていることも十分、考えられる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年1月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。