ザ諜報

2016年01月19日 11:07

日本の映画館で「スギハラチウネ」という地味な映画が上映されています。タイトルがカタカナなので魅力的ではないのですが、漢字で書くと「杉原千畝」で読めないことがあるのでしょう。事実、初対面にもかかわらず「チウネさん」と声をかけた人をその後、伴侶にしています。唐沢寿明と小雪が主演ですが、監督がチェリン グラックという和歌山生まれのアメリカ人であり視点が面白いと思います。

この杉原千畝氏は第二次世界大戦中、リトアニアの領事代理時代にユダヤ人の難民数千人に日本の通過ビザを発給し、迫害されたユダヤ人を救った外交官として広く知られています。何人救ったか、これを6000人とする説もありますが、ビザの発給数が2000件強だったことで数が合わず、家族ビザだったのかそのあたりは研究者の間でも今だ判明していないのが実情です。ただ、恐怖のユダヤ迫害の危機にある中、多数の人命を救ったことは事実です。

その杉原千畝氏ですが、ほとんどの方は「ユダヤ人を救った人」のイメージしかないと思いますが実は大変なインテリジェンスオフィサーであります。つまり諜報部員です。満州時代に白系ロシア人(=赤の共産に染まらなかったロシア人の意)の前妻を貰ったことが彼の将来を左右します。映画では冒頭、「杉原千畝」と出るところで「ペルソナノングラータ」と出るのですが、この映画、そして杉原を語るにはこれがキーポイントであります。

彼はその後、高いロシア語能力故、外務省からモスクワ赴任を命ぜられますが、ソ連からペルソナノングラータ(好ましからざる人物)としてビザを発給してもらえなくなるのです。映画ではここは説明していませんが、研究からは白系ロシア人を介して諜報活動を行い、北満鉄道の買収交渉などをうまく取りまとめたことがソ連から睨まれた理由とされています。

さて、彼は堪能な語学能力を生かしてポーランド諜報部と手を結びソ連の動きを中心に諜報活動をします。「独ソ不可侵条約」が締結されていた最中、ドイツ駐留でヒットラーに強く影響を受けた上司の大島浩武官に杉原はドイツがその条約を破棄し、対ソ戦を行う情報をもたらしています。大島は本国に一応、報告はするものの本国はその情報を無視してしまいます。当時の日本、および大本営が情報の取捨選択を誤った事例は数多くありますが、この話はその一つであります。歴史にレバタラはないのですがこの情報をきちんと検討していれば日本の状況は大きく変わっていただろうとされる代表的事例であります。

ペルソナノングラータで最近注目されたのはミスカナダに選ばれながらも中国での世界大会の入国を拒否されたアナスタシア リンさんのケースが著名だと思います。彼女は中国政府が弾圧している「気功集団」への迫害に関して強く反発していることで25歳の一般女性にも好ましからざる人物の烙印を押したのです。杉原のケースでもそうでしたがペルソナノングラータは一般にはかなり上級のクラスではないと出ないケースとされており、杉原にしてもリンさんにしても珍しいとされています。

ただし、このような言葉で入国制限をしないまでも海外旅行などの入国申請書に「あなたは過去に入国を拒否されたことがありますか?」「国外退去を命ぜられたことはありますか?」などの質問があると思いますが、あれなどは実質的には好ましくない人物は国に入れないということであり、ペルソナノングラータと同意の効果があります。

カナダで中東からの難民の申請手続きが遅れているとされるのはその人物調査に時間がかかっているらしいと聞いたことがあります。欧州には難民に紛れてISのテロリストが相当紛れ込んだとされています。かつてカナダから国境を接するアメリカに入国し、テロ事件が起きたこともあり、カナダ政府は慎重に調査を進めているのでしょう。

これらの情報は関係国がある程度は共有する仕組みが出来ていると同時にそれぞれが一定の諜報、情報活動を行っています。日本では警察力を通じて公安に集中し、内閣情報調査室あたりが上部に位置するのでしょう。外務省の出先公館も諜報は相当行っています。例えば昨年話題になった慰安婦像に関してあちらこちらから「国(大使館、領事館)は何もやってくれない」と声が上がりましたがそれは一般市民が知らないだけで恐ろしく情報は把握し、一般より早く対応しているケースがほとんどでしょう。分からないように活動するのが在外公館の役目でもありますが一般には分からないので評価されないだけだとも言えそうです。

諜報は分からないからこその価値があります。決してヒーロー(ヒロイン)になることはありません。が、びっくりするほどスパイ行為が行われていたりすることもあり、案外身近でそんなことがある場合もあるようです。日本国内では公安の目は結構シビアで1年ほど前、シリアを目指す日本の若者が話題になったことがありますが、公安はかなりの確率でそれら人物像は掴んでおり、「あのお隣さんが…」という話はよくあることなのです。

知られざる諜報、案外、あなたも監視されているかもしれませんね。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 1月19日付より

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