イラン核問題は本当に解決したか --- 長谷川 良

2016年01月22日 12:30

イランが昨年7月の核合意内容を完全に履行したとして、米英仏独露中の6か国は16日、対イラン制裁の解除を決定した。国際原子力機関(IAEA)の天野事務局長は同日、「核合意に基づく措置の履行が完了した」と発表した。具体的には、イランは設置済み遠心分離器約1万9000基の約3分の2を撤去し、低濃縮ウラン(LEU)約10トンの大半をロシアに搬出した。

対イランの経済・金融制裁の解除はイラン国民が願ってきたことであり、朗報だ。それだけではない。国際企業もイランとのビジネスの再開を願ってこの日が来ることを首を長くして待ってきた。“イランもハッピー、国際社会もハッピー”なのだから、イランの核問題をいまさら蒸し返す気はない。オバマ大統領のように、「世界はより安全となった」と言い切る自信はないが、2003年以来の難問が外交上は解決されたわけだから、好ましいといわざるを得ない。

しかし、イランの核問題は本当に解決したのだろうか。換言すれば、イラン核問題が6カ国との間の外交交渉で合意が実現したが、4回目の核実験を実施したばかりの北朝鮮とイラン両国間の核開発協力はどうなるのか、という問題を忘れることはできない。

イランの国営メディアによると、イランと北朝鮮は2012年9月、テヘランで開催された第16回非同盟諸国首脳会談で北から出席した金永南最高人民会議常任委員長が同月1日、イランのマフムード・アフマディネジャド大統領(当時)と会談、イランとの間で「科学技術協力協定」に調印している。イランの精神的指導者ハメネイ師も同委員長との会談で、「両国は共通の敵を抱えている。敵の攻撃に対抗するために相互支援すべきだ」と述べたという。

イランと北朝鮮両国間の協力はさまざまな分野で久しく推進されてきた。両国は2007年8月8日、エネルギー分野の協力強化で合意し、北朝鮮は原油と交換でガソリンの供給を申し出た。軍事分野の協力関係はさらに緊密だ。イランが開発した中距離弾道ミサイル「シャハブ」は北型ミサイルを原型としているといわれる。北朝鮮は06年、中距離ミサイル18基をイランに輸出している、といった具合だ。 

両国間の核開発分野の連携については、情報が分かれている。「ミサイル開発の協力は考えられるが、核分野ではわが国は平壌からの技術支援を仰ぐ必要はない」(駐IAEA担当のソルタニエ前イラン大使)、「私は核物理学者としてテヘラン大学で教鞭をとってきたが、北の科学技術に関する専門書を大学図書館で見たことがない。核分野でわが国の方が数段進んでいる」(サレヒェ副大統領)といったイラン側の発言が支配的だが、北の2回の核実験後、イラン側の姿勢が変わったといわれる。イランが北の核技術を見直したわけだ。

イランは中部ナタンツやコム近郊の地下施設フォドゥでウラン濃縮関連活動を進めている一方、北は寧辺で核燃料の再処理で核兵器用のプルトニウムを製造し、パキスタンのカーン博士から入手した遠心分離機関連技術を利用してウラン濃縮関連活動を開始している。IAEAは2003年からイラン問題を取り組んできたが、北朝鮮の核問題は1992年から今日まで未解決のまま残されている。

思い出してほしい。独ヴェルト日曜版は2012年3月4日、「北朝鮮が2010年、2度の濃縮ウランの核爆発実験を極秘に実施した。そのうち1回はイランの要請を受けて行った可能性が高い」という西側情報筋の見解を報じているのだ。この報道内容が正しければ、イランは北側の技術支援を受けて既に核弾頭を製造し、爆発実験を行ったことになる。

独紙によると、スウェーデンの核物理学者ラルス・エリク・デゲア氏は、ウィーンに本部を置く包括的核実験(CTBT)機関の国際監視サービス(IMS)に送信された韓国、日本、ロシアの各観測所のデータをもとに大気圏の放射性アイソトープの測定を分析し、「北が06年と09年の2回のプルトニウム核実験のほか、10年に2度の濃縮ウランの核爆発を行った可能性がある」という調査結果を科学専門誌ネィチャー1月号に紹介している。

北朝鮮は今月6日、水爆実験を実施した。その10日後の16日、米英仏独露中6カ国は対イラン制裁の解除を決定した。合意表明の中には、「イランが昨年7月の合意内容を完全に履行したことが確認された」と記述されているが、もちろん、イランと北朝鮮間の「科学技術協力協定」、核開発計画の連携問題などには全く言及されていない。

イランの改革派ハサン・ロウハーニー大統領はいつまでその任務を担当するだろうか、第2のマフムード・アフマディネジャド大統領が出現することはないか、といった不安は残る。

果たして、イランの核問題は解決されたのだろうか。換言すれば、北朝鮮の核問題を解決するまではイランの核開発計画は本当にストップしないのではないか、という懸念が排除できないのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年1月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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