潘基文事務総長の「任期末症候群」 --- 長谷川 良

イスラエルのネタニヤフ首相は26日、潘基文国連事務総長の発言にかみついた。事務総長がイスラエルの占領政策に対しパレスチナ人は不満を持っていると同意を表明したことに対し、ネタニヤフ首相は、「国連事務総長はテロリストを支援している」と激しく批判したのだ。

もちろん、潘基文国連事務総長にはテロリストを擁護する考えはなかった、と信じたい。事務総長は占領地下で不自由な生活を余儀なくされているパレスチナ人に同情を表明しただけだろう。ただし、イスラエルは過激なパレスチナ活動家をテロリストと見なしていることは周知の事実だ。

問題は国連事務総長はパレスチナ人を擁護すれば、イスラエルから批判を受けることを知らなかったわけではないことだ。「テロリストの擁護」とまではいかなくても、イスラエル側から強い反発が飛び出すことは十分予想できたことだ。イスラエルとパレスチナ人問題は非常にデリケートだ。発言に注意しなければならないことはいうまでもない。

ところで、潘基文事務総長は残された任期が少なくなるにつれ、反発や批判を知りながら、人気取りを狙った言動が増えてきているように見える。その典型的な実例は、中国の北京で昨年9月3日開催された「抗日戦争勝利70周年式典」とその軍事パレードに夫婦で参加した時だ。潘基文事務総長は日本や米国からの批判に対し、「国連に対して誤解している。国連や国連事務総長が求められているのは中立性ではなく、公平性だ」と弁明し、日本側の「国連の中立性に違反する」という批判に反論し、予想通り、韓国からは大喝采を受けた。

国連機関は加盟国193カ国から構成された組織だ。国連憲章第100条1を指摘するまでもなく、国連事務総長はその職務履行では中立性が求められている。繰り返すが、紛争解決の場でどちら側を支持するかはどの国からも求められていない。イスラエルとパレスチナ人問題も同様だ。紛争の解決を調停するために、関係国に話し合いを求めるだけだ。

任期の終わりが近く、3選の目がない国連事務総長という立場は危ういものだ。任期中、大国や強国に発言が束縛されてきた事務総長はここぞといわんばかりに自分の信念や思想を吐露しようという衝動に駆られる。

問題を一層深刻にするのは、国連事務総長の任期後、次のポストを狙う事務総長の場合だ。その言動が次期ポスト獲得を最優先とした言動となってくるからだ。潘基文事務総長の場合、次期韓国大統領ポストだ。

国連事務総長から晴れて韓国大統領に転職した場合、新大統領には中立性や公平性よりも、国益最優先が求められる。潘基文氏は中国・黒竜江省ハルビン駅舎内の安重根記念館を訪問し、その行動を称えたとしても韓国大統領としては問題はない。ちなみに、伊藤博文初代韓国総監を狙撃した安重根は日本人の目には明らかにテロリストだ。

「立つ鳥跡を濁さず」という故事がある。任期末症候群の兆候が見られる潘基文氏に贈りたい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年1月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。