トヨタの危機感

岡本 裕明

1月27日に飛び出した二つのトヨタを巡るニュースには深く考えさせられるものがありました。一つはダイハツを完全子会社化すること、もう一つはスズキとの提携交渉に入った点であります。ぱっと見ると王者トヨタの更なる攻めの姿勢と見えます。特にメディアなどでは新興国に於ける小型車市場へのテコ入れ的な解説が目につきます。が、私はトヨタが焦っているようにも見えます。何に焦っているのか、それは次世代自動車の時代という戦国時代が遠からずやってくるその日が迫っているということではないでしょうか?

トヨタとダイハツの関係は60年代にまで遡り、蜜月の関係を築いているわけですが、それを完全支配することにした上でスズキに引導を渡したように見えます。スズキ自動車は会長の鈴木修氏が最大の懸念としていたフォルクスワーゲン社との離婚問題に決着がつき、いよいよ本格的に息子の俊宏氏主導の時代が訪れます。一方、俊宏氏が56歳になるまで社長になれなかったという意味合いは修氏のカリスマ性が強すぎたともいえ、その濃厚な社風を薄める役目を担わなくてはいけません。また、俊宏氏は以前から鈴木家の世襲でこの会社を続ける気はないと明言しており、次期社長はファミリー外とされています。

トヨタの戦略とはその経営指針の隙間にすっと入り込み、軽自動車、小型乗用車の圧倒的シェアを確保するつもりではないでしょうか?ではなぜ、そこまでして小型車戦略をトヨタが取り込まねばならないのか、といえば次世代自動運転自動車のプラットフォームは小型車が優位と見え、市場のデファクトスタンダードを確保するためではないかと考えています。

あと数年もすれば各社から何らかの自動運転の自動車が出てきます。その際、自動車市場が大きく変わるとすれば運転が苦手な女性、高齢者、或いはハンディを背負った方等が新たに自動車市場に参入する可能性であります。極端な話、ママチャリ感覚の車になりうるのです。その場合、やはり軽自動車や小型車をベースとしたものになりやすいのではないでしょうか?

少なくとも日本やアジアの一部では道路事情や駐車スペースの問題は残ります。それを考えると自動車を「いつかはクラウン」というステータスシンボルではなく、自転車の様に乗り回せるようにすることが経営的には面白いと思います。

もちろん、自動車メーカーとしては自動運転の初期のモデルは高い利益率が取れる高級車にしか装着しないようにしたいでしょう。ところが、自動運転を開発してるのは自動車会社のみならず、グーグルを含めた様々な会社が目をつけています。つまり、自動車業界の常識が打ち砕かれる可能性が大いにあるのです。

唯一、日本のメーカーに有利な点は自動運転は相当高度な技術を各所に内包し、組み合わせるため、電気自動車の時に騒がれた誰でも出来るプラモデル感覚の自動車とは違うという点です。

そういえばテスラのイーロンマスク氏がトヨタの燃料電池の車をボロクソにこき下ろし、普及はしないと断言していましたが、テスラも踊り場にある気がします。正直、あの車はフルサイズで巨大ですからごく一部のファンには受けますが、普及性はありません。電池も重すぎます。長期的にはトヨタ式のハイブリッドかプラグインハイブリッドで走行距離を生み出せる方式が優位でガソリン稼働しないテスラにこそ、一定の限界がありそうです。

クルマはステータスと実用の二極化が進むと思います。実用車なら日本メーカーに有利に働くでしょう。今はガソリンが安いので燃費に対する懸念も薄いのですが、必ず時代はうねりますから低燃費で誰でも扱える簡単な移動手段を生み出すことが自動車会社の生きる道となることでしょう。自動車とは正に「自動の車」を作る会社なのですからね。

では今日はこのあたりで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 2月2日付より