本を出したら売れると思っている人が多い不思議

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城村氏のオフィスにて。前列右が城村氏、左が筆者。

2015年に国内で出版された書籍と雑誌の販売額が、前年より約5%減の1兆5200億円程度にとどまりました。市場のピークが1996年(20年前)の2兆6563億円なので約6割に落ち込んだことになります。

しかし、出版不況といわれながらも出版には根強い人気があります。有名出版コンサルタントが開催するセミナーは満員御礼。有名書店に自分の本が並ぶことは自分のパンフレットが陳列されているのと同じことです。

「本を出すことと売ることは異なります。決して簡単ではありません」と述べるのは、角川学芸出版のフォレスタシリーズの創設に携わり、フリーの書籍編集者として活躍している、城村典子氏です。今回は、著者になるためのヒントを伺いました。

●本は出版してからが勝負

—昨今、出版が難しくなっていると聞きますが実際はどうでしょうか。

城村典子(以下、城村) 版元編集者と打合せをするとマーケットの現況がよくわかります。版元からの情報は決して、楽しい話ばかりではなく、現実は厳しいという話もあります。企画の採用の話、出版後の売れ行きの状況の話、提出したサンプル原稿の出来の話など様々です。

特に、出版難易度は厳しさを増しています。版元の企画会議に上がってくる企画のなかで最終選考を通過するのは数%ではないかと思います。ようやく出版にこぎ着けても増刷(重版)になる確率は1割を切っています。そのため、情報発信力に長けている方のほうが有利ともいえます。

—出版するよりも、あとの販促が重要だということですね。本を出される方は、ご自分のブログが何万PVとか、何万件のデータベースを所有しているとかの話をされますが実績の伴う方は少ないように思います。

城村 既にご自身のフアン層が形成されていて、確実な反響の得られる方は有利だと思います。また、何万PVとか、何万件のデータベースみたいな話は聞きますが、実際にやってみないと効果はわかりません。そのためエビデンスが確認できる情報は有り難いです。

—シミュレーションできることも大切です。何万PVがあっても、販売に結びつかなければ意味がありません。私は、どの程度が実際に販売に結びつくかコンバージョンレート(CVR)を算出するようにしています。またその数値が明確に出せない方は信用しないようにしています。

城村 いずれにしても出版は出してからが勝負だということです。出版社は出版をしてからではリスクヘッジができませんから、販売シミュレーションを算出するための有益な情報は必要です。効果を検証しなければいけないからです。その前提となる情報は大切です。

●文章を書くという作業

—知識や経験がある人ほど、どうしても文章が難解になりがちですね。

城村 私は「読者が期待する」という視点が大切ではないかと思っています。期待とは「面白そう」「魅力的だな」と思ってもらえるヒントを散りばめることです。ヒントを散りばめれば全部を読む必要はありません。斜め読みでも充分に伝わるわけです。

良くないのは「きちんと読んでもらえれば伝わる」という考え方です。例えば、「上司にきちんと読んでもらえれば伝わる」と考えている部下は多いと思いますが、上司は忙しくて時間がありませんから、そこを前提としなければいけません。

—読み手の立場にたつという考え方は大切ですね。

城村 「効率的に理解できる」ことを意識すれば良いのです。効率的に理解させる場合、ご自身の主張は不要です。例えばニュースサイトが書き手の自己主張に満ちていたらどう思いますか。上司への報告書が自己主張に満ちていたら上司はどのように思うでしょうか。必要なことは事実の積み重ねであって「役立ちそうな情報」であることです。

—ニュース記事を書いている私としては参考になります。

城村 また、出版は特別な人だけが実現するものではなくなっています。多くの出版社でコンテストを実施していますし、オーディション形式の出版塾も増えています。多額の費用を掛けて何も実現できなかったという結果にならないためにも、必要な要素を精査してください。

また、編集者は、読者との間をつなぐ役割や、質の高い本をつくり販売する役割も担っています。出版の環境は、厳しくなりつつありますが、著者と編集者に良い関係があれば、結果は良い方向性に展開するものです。大変なことが多いからこそ、やりがいもあります。それが出版の醍醐味ではないかと思います。

—有難うございました。

出版実現力を高めるためには、実力のある編集者とのタッグが必要になります。特に、これから著者を目指す方は編集者主催の勉強会など知り合う機会を増やしてみては如何でしょうか。

尾藤克之
コラムニスト

※城村氏オフィスはこちら
株式会社 J.Discover
代表取締役 城村典子
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