反グローバル化現象の足音

かつてアメリカは自由主義、オープン主義で国々の距離感をより密接にしようと努力していた時代がありました。良きリーダーシップだったと思います。過去形にしたのはオバマ大統領がその方針を明白に変えたからです。アメリカは世界の警官ではない、と公言した時点でアメリカのもう一つの悪い主義、モンロー主義が帰ってきた気がします。

アメリカは独立独歩でやっていく、と自信をつけさせたのはシェールガス/オイルの開発であります。オイルの自前主義により中東への介入を必要以上にしなくてよい、というわけです。更には隣国であるカナダから環境トラブルの懸念があるオイルサンドのパイプラインはアメリカを縦断させることは問題があるとその長年の両国間の懸案事項を葬り去りました。

ドナルド トランプ氏の狂言とも言える言動に多くの共和党員がその支持の姿勢を見せるのはなぜでしょうか?アメリカはより保守的にそして自前主義を貫き、メキシコとの国境に万里の長城のようなものを作ると主張しています。NAFTAはアメリカ、カナダ、メキシコにとって素晴らしい貿易協定であり、特にメキシコはその恩恵をフルに受けています。

1980年代初頭、メキシコ日産の工場にはぺんぺん草が生えていると揶揄されました。大学のゼミで日産のメキシコ投資について成功だったかどうか、真剣な議論を繰り広げたこともあります。そのメキシコは多分、近年では新興国として最も安定的に成長している代表的国家でありましょう。メキシコ日産は拡大の一途であります。当然、アメリカも応分のメリットはあるはずなのですが、自前主義に転換すると全く別のトレンドを作り上げてしまうことになります。

恐ろしいのは欧州においてその保守主義がいよいよ強まってきていることでしょうか?

フランスの極右政党、国民戦線のル ペン氏の勢いはトランプ氏の大統領選よりもっと怖いものがあります。テロの恐怖、増大する難民は欧州という狭い地域で保守派が次々と支持率を高める事実を作り上げました。ハンガリーではオルバン首相が根を張り、、ポーランドの総選挙では保守のカチンスキ政権が政権をとりました。イタリアでも北部同盟のサルビーニ氏、そしてイギリスではEUからの離脱の動き、スコットランド独立問題など難問山積です。

これらの動きはもはや右派左派という物差しではなく、グローバル化の反動であり、極端な自由からの揺り戻しでもあります。

アジアに目を転じればTPPがあたかも発効したかのような話になっていますが、果たしてアメリカは本当に国内できちんと批准が得られるのか、かなり厳しい気がしています。少なくとも今の主要たる大統領候補はほぼ全員反対、しかも賛成派だったルビオ氏まで「賛否留保」に姿勢を転換しました。

このTPPの最大のネックは貿易や関税ではなく、人の動きに対する緩和策ではないでしょうか?ノーベル賞を受賞したスティグリッツ博士は一方で、投資にかかわる分野に問題があると指摘しています。WTOドーハラウンドも死んだ現在、反グローバル化に驀進しているように見えます。

ニューヨーク大学のノリエリ ルービニ教授はこれらを大衆迎合主義と称し、この動きが強まればそれこそ、ユーロが崩壊する可能性すらあると指摘しています。(ルービニ教授は知識層きっての悲観論者ですから言葉半分だけ受け止めればよいと思います。)こんな状態では世界がバラバラになり行くシナリオがないとは限らないと思っています。

これら保守化の動きの最大のトリガーはイスラム国ととどまらないテロ行為にあります。これがせん滅され、事態が収まれば緊張感も多少は緩和すると思いますが、仮に逆の状況になればドナルド トランプ氏が大統領になるというジョークは現実のものとなるかもしれません。その大統領選挙まで僅か8か月、その間にイスラム国やテロの問題が収まるかどうか、これが地球全体の行方を決定づける大きな転換点となることでしょう。2016年は本当に日々の動きから目が離せなません。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 2月28日付より