消費税上げ先送りなら8%で打ち止めも --- 中村 仁

2016年02月29日 00:00

またもや選挙対策に悪用か


安倍政権は消費税10%への引き上げを断念する気配を流しだしました。2017年4月実施の予定ですから、年末に17年度予算案を決める際に最終決断をすれば間に合うのに、気の早いことです。先送りすればこれで2度目となり、当分、次の実施時期を容易に決められないかもしれません。これが大問題です。

先送りした後、どうするのか。17年4月の1年後ですか、2年後ですか。どのような経済見通しをもって新たな実施時期を決めるのか。かりに決めたとしても、もうだれも信じないでしょう。世界経済は今より悪くなる可能性のほうが強いでしょう。何年後の実施に先送りするのか、判断はますます難しくなります。「首相は消費税を8%どまりとし、10%は断念する」との見方もでてきましょう。選挙対策にはなっても、財政危機がさらに悪化します。

「リーマンショック(世界金融危機)や大震災のような事態が起きない限り10%実施する」と、つい最近まで安倍首相は断言してきました。今後、経済情勢が悪化するといっても、これほどの惨状にはならないでしょう。同じ内閣官房参与の浜田エール大名誉教授は「金融市場の悲観論が異常だ。日本経済は堅調な雇用、企業業績、税収増など強さを発揮している」とインタビューで自信を見せました。

すべてシナリオ通りの先送り論


安倍政権では、冷静な経済的判断より、政治的な思惑が勝っているようですね。年初から株式市場が世界的に動揺し、日銀のマイナス金利の導入後も、株価が回復しないのを見て、まず自民党の稲田総務会長が先送りを示唆しました。「ああやったな」と思いましたね。ついで本田内閣官房参与がインタビューで「増税は景気を冷やす。先送りを」と、はっきりした発言で続きました。

予定のシナリオを官邸が書いて、演技させているのでしょう。政権の最重要事項について、先走ったことを発言したら、けん責ものでしょう。おとがめがないどころか、安倍首相自身が「世界経済の大幅な収縮が起きているがどうかをみる」と国会で発言しました。さらに菅官房長官は「税率を上げて税収が上がらないようでは、消費税を引き上げることはない」と、矢継ぎ早です。

巧妙な仕掛けというより、あからさまですね。アベノミクスの最大の評価尺度だった株価高が終わり、円安も逆流状態です。アベノミクスの息切れ説が強まっています。軽減税率の導入でも、業界は煩雑な対応を迫られており、いっそのこと、8%の打ち止めにすれば、軽減税率も必要なくなる。これで当分、しのいだほうが夏の参院選、あるいは衆参同日選挙を戦いやすいとの判断があるのでしょうか。

二匹目のドジョウはあからさま


2014年末の衆院選を控え、安倍首相は「消費税10%を先送りすることの是非を有権者に問う」と語りました。解散の真意は長期政権に向け、野党の体制が整わないタイミングを狙うところにあったのでしょう。そんなことを言えませんから、10%先送りを表向きの理由に持ち出したのです。有権者はこれに反対しませんから、結局、与党が大勝しました。再び先送りを選挙対策に使おうとしているのでしょうか。二匹目のドジョウとなるのでしょうか。

安倍政権が発足してからの約3年間で、実質経済成長率は2%強にとどまっています。16年の成長率は0.8%(OECD見通し)で、米欧に及びません。株価、円安に比べ、実体経済に対するアベノミクスの成果は貧弱です。日銀によるマイナス金利の導入も、「何、金利がマイナス。そんなに経済の実態は悪いのか」という印象が強いですね。

安倍首相は「自分の政権では10%から上げない」と言ってきました。それをさらに8%で打ち止めにしてしまうと、消費税収を当てにしている社会保障財源に大きな穴があきます。年金、医療を犠牲にするのか、赤字国債の増発に頼るのか。日銀はいくらでも今後も国債を購入するつもりです。そんな手を使い続けたら、財政も中央銀行も健全性が失われます。財政に続いて、金融も先進国中で最悪の状態に追い込まれており、もし重大な経済危機に襲われたらどうするのでしょうか。

財政健全化目標も先送りか


財政健全化目標(基礎的財政収支を20年度に黒字化)も断念しなければなりません。何を根拠に新しい目標を作るのでしょうか。というように、10%を先送りすると、次々に別の問題が浮上してきます。政治家は「将来のことより、今をどうにかするかだ」という気持ちでしょう。そのツケは確実に次世代に回されます。

消費税10%を前提にして、軽減税率を導入すべきだと、連日、異例の大キャンペーンを展開した新聞がありました。選挙対策からまたも先送りも示唆しようとしている安倍政権に、かれらは厳しい注文をつけるべきでしょう。「年末の予算編成期を待たずに、なぜ今、この時期に。よほど重大な世界危機が起きない限り、予定通りに実施すべきだ」と主張しなければなりません。

中村 仁
読売新聞で長く経済記者として、財務省、経産省、日銀などを担当、ワシントン特派員も経験。その後、中央公論新社、読売新聞大阪本社の社長を歴任した。2013年の退職を契機にブログ活動を開始、経済、政治、社会問題に対する考え方を、メディア論を交えて発言する。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年2月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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